『今日はありがとう。楽しかった』


それだけ言って別れた。


神林くんは何もきいてこなかった。

さっきのは、聞こえてなかったかも。


それでいい。


言ったら、優しい神林くんはきっと困る。



わたしは神林くんを好きなのはやめるんだ。


もとの、目立たない、大勢の中の一人に戻るんだ。



「いらっしゃいませー! E組のパフォーマンス・カフェはいかがですかー!!」


夏休みが終わると文化祭の準備が忙しすぎて、あっという間に本番。


わたしたちE組のカフェは、普通に飲み物とお菓子を出すのと、一時間毎に何かしらの出し物をすることになっていた。


音楽だったり漫才だったり、弓美もいる演出係はノリのいい人ばっかり集まってて、お客さんはパフォーマンスを見に時間を合わせて集まってくれる。


「笠原さん、垂れ幕見たよ! ちょーカッコイイ!」

「あれ描いたの笠原だったよな? さっきあれ見て来てくれたお客さんいたよ!」


夏休みをかけて完成させた垂れ幕は好評で、何人かは声を掛けてくれた。


よかったぁ。

無事に、描けてよかった。


「いらっしゃいませー!」


嬉しくて、珍しく張り切って声が出せる。

パフォーマンスをする度胸はないけど、わたしはウエイトレスとして、がんばるんだ。