「えーっあのデカい垂れ幕一人で作ってんの!? 絶対いいように押し付けられてんじゃん」

甲高い女の子の声。

「文句言えなそうだもんな」

「だからだいじょーぶだって」

面白がってる男の子の声。

「バレないうちにとっとと帰ろー」


複数人が出てくる気配がする。


みつかりたくない……!

とっさに自分のクラスに飛び込んだ。


もう彼らは、わたしの話はしてなかった。


でも、教室に駆け込む前、気付いちゃったんだ。


わたしが描いてる垂れ幕に、べっとりついた、黒いペンキ。



わたしじゃ、ない。

黒いペンキなんか、使ってない。


さっきあの人たちが言ってたのは、このことか。



悔しい……。


別にこんなの乾けば上から塗り直せるけど。



わたしが、文句を言えなそうだから、謝りもしないって言うの?


地味で弱気な女には、謝る価値もないってこと?





悔しい。



悔しいよ。





声も出せずに泣いた。



まだ明るい、夏の夕方。