「あ、笠原さ、数学の宿題やってきた?」
ぼうっとして二人を眺めていると、神林くんが急にわたしに話をふってきた。
だいたいの人は、わたしのことを笠原(かさはら)、って呼ぶ。
ごくまれに、弓美みたいにつきあいの長い子は、弥白(やしろ)って下の名前で呼ぶけど。
「えっ、あっ、うん、やってきた! アドバンスのことだよね?」
『アドバンス』と言うのは数学の問題集のことだ。
「だよな~笠原はマジメだもんな~。俺、途中までやったんだけどわかんないとこにぶちあたってさぁ」
「弥白、教えてあげてよ。槙十ってば自分があたってるとこなのに、放棄しちゃったんだって~」
「だ、だってわかんなかったもんは、しょーがないだろっ」
弓美も勉強はできるほうだけど、教えるのはメンドクサイって言って、その矛先はいつもわたしにくるんだ。
「わたしでよければ……まぁ」
数学の先生は毎回、授業の最後に問題集や教科書の問題を挙げて、次回までに解いてくる人を決める。
間違っていても怒られたりはしないけど、なんにも書けないのはたしかに、まずいかな。
困ってるみたいだし……。
本当は、こうして話しているだけでも、ちょっと緊張するんだけど。
でも、神林くんはなんとも思ってないみたいだし、あんまり気にしたら失礼だよね?