神林くんが慌てて廊下を駆けていくと、美術室はいつもの静かでよどんだ空間に戻った。
授業中、熱心になにかをつくるみんなを見てるのは面白い。
でも、わたしはやっぱり、美術室は静かな方が落ち着くな。
「珍しいですね、笠原さんがクラスの人と話してる」
さっきまで姿を消していたのに、いつの間にか戻ってきていた千里先生が、箒で床を掃き始めた。
この先生は本当に、ぼーっとしてるようでよく見てる。
でも、その言い方はちょっと心外。
わたしは少しむくれて言い返した。
「わたしだって友達くらいいますよ。いいんですか、生徒にそんなこと言って」
「あ、そうか。ごめんなさい、ばかにしているわけじゃなくて」
「その言い方は……たしかにわたしは友達多いほうじゃないですけど」
美術の先生って、みんなこんな感じなのかな。
全然、先生っぽくない。
「あの絵は、彼の影響ですか」
「へ?」
「僕は笠原さんの儚くて壊れそうで不安定な絵も好きですけどね? でも君は、もっと人と関わったほうがいい。そのほうが、輝ける人です」
先生の言うことは時々、難しい。
「難しいです……わたしはどの絵も、描きたくて描いてるだけです。どういう違いをつけようとか考えてないし」
「そのうち、わかるかもしれませんよ」
先生はゴミをかき集めながら、穏やかに言った。