右側に、カバン。

左側に、紙袋。

目の前に、留守番電話マークの表示された、携帯電話。


わたしは、床に正座して、ケータイとにらめっこした。


ふーーーぅ……。

大きくひとつ、息をつく。


思い切ってケータイを手に取り耳に当てると、機会的な女性の声の後に、案の定機械的なお母さんの声が録音されていた。


『大谷さんに、あんたもパーティーに行くって言っちゃったから、よろしくね』


わたしは間髪いれず着信履歴のいちばん上を選択し、呼び出し音を聞いた。

しかし留守電になってしまったので、早口で録音しておくことにする。


「弥白です。留守電聞きました。行くって言っちゃったなら仕方ないから行こうと思います。でも、ひとつ条件があります。パーティーにちゃんと出席したら26日は勉強をしなくていい日にしてください」


ケータイを、もとの、目の前の床に置く。


大きくひとつ、息をつく。


「あーもう! なんで自分の親と話すのにこんなに緊張しないといけないの!」


ばたんと後ろに倒れて、初めて、真冬なのに変な汗が出てくるくらい緊張していたことに気が付いた。