「……好きってなんだろーな」


「は?」


けっきょく自分の気持ちがよくわからないまま夏休みに入った。


今は毎年恒例の夏合宿に来てる。


冬に向けて、また一から見直してく時期だ。

1年も鍛え直さねーと。



っていう大事な時なのに俺はつい、そんな言葉をもらした。


「何なにナニ! 槙十くーん好きな子でもいるんですかーぁ?」

「うわっお前ウザ!」


聞こえたのは、たぶんコイツにだけ。

設楽翔貴(したらしょうき)。


タメだけどすげぇデカいからしょっちゅう大学生に間違えられる、俺がバスケ部の中ではいちばん信頼してるやつ。


「ウザいとか言うなよ俺は心配してんだよ。バスケ部のキャプテンで! その顔と性格で! なんでお前には彼女がいないんだと!」

「うっさいな俺の勝手だろー! だいたいお前は大会のたびに他校の女子ナンパしやがって」

「うわぁ槙十くんてば、マ・ジ・メ」

「お前コロスまじコロス」


「こわっ! ごーめんって! え、でもまじに、なんかあったわけ? おにーさんに話してみー」


翔貴はチャラいしどこまでふざけてんのかよくわかんないけど、まぁ信頼できるやつだしな……たぶん。



「その子の声だけ、聞こえたんだ……」


体育祭の時だった。


俺はリレーのアンカーで、接戦でバトンを渡されて。


もう、前のやつを抜かすことしか頭になかった。


でも最後の直線に入る少し手前で、聞こえたんだ。



笠原の声。