さっき、魔法みたいに絵を描いてた笠原の手が、俺の手を消毒して絆創膏を貼ってくれる。
俺はほんとに血が嫌いで、見るだけでなんとなく世界がぐらぐらするんだけど……。
笠原の、手、白っ!
そして指ほっそ!
やばい。
やばいやばいやばいなんだコレ!!!
ぐらぐらしながらどきどきしてる、俺。
「戻るか」
「そうだね」
冷静を装って、美術室に戻る。
今度こそ課題に集中して、もう笠原の方は見ない。
だって笠原がいつもと違うから!
「おっし、今日はここまで!」
なんとか作業が終わって外を見ると、雨の降りそうな黒い雲が見えた。
俺が傘を持ってないと言ったら笠原は、先に帰りなよ、と言ってくれた。
その時、やっとまた顔を見られた。
ほんとに、今日はなんだか違うふうに見える。
違……違うだろ!
「髪だ!」
唐突に気付いた。
笠原は、例の長い黒髪を、今日は一つに結んでいる。
「やー、なんかずっと違和感あったんだけど今気付いてさぁ」
結んだ支点からさらさら揺れる、長い髪。
いつもは隠れた、細くて白い首がすっきりよく見える。
「ぷっ」
あんまり世紀の大発見のように言う俺が面白かったのか、笠原は笑い出した。
か……か、わいい……。
俺はとっさに、冗談らしいことを言ってその気持ちをごまかす。