今年の4月。


2年に上がって、クラス替えでE組になった。


教室に入るともう隣の子は席に座ってた。

今どき古風な感じの切り揃えた黒髪ストレートに、白い肌のおとなしそ〜な女子。

姉貴と妹がいるせいか、俺、つい女の子の髪を見ちゃうんだよね。

毎朝たいへんそーにしてるから。


でもたぶんこの子は、なんにもしないでこの髪っぽいな。


えーっと…。


ぶっちゃけ全然記憶にない子だったから手もとの名簿で名前を探した。


俺の前、前……か、笠原……ん?

なんだこれ下の名前読めねぇ。


俺はこれ見よがしにどかっと席に座って女の子の視線がちらっとこっちに向いたのを確かめた。

俺、女々しーかな。


「ねぇ」


女の子が、わたし? というふうに小首を傾げた。


「笠原さんの下の名前ってなんて読むの?」


「や、やしろ……」

「やしろ! へぇ、やしろって読むのか。なんか、いい名前」


これは本心だった。

隣の席のやつとは仲良くなりたいし。


でもまさか、名前で呼びあって、デートする仲になるなんてこんときは微塵も思ってなかったな。