「そういや、お母さんは平気?」

「あ……んーと、嘘、つくの、ほんとはイヤだから美術館行くかもって話をさりげなくしたんだけど……ダメそう。全然、聞く耳持たない。なんであんなに頑ななのかなぁ……」

「そか……」

「でも今回のテストは自分でもできたと思うし! それに16日はお母さん帰り遅いはずだからバレない大丈夫!」


嘘つくのはイヤだけど、槙十と一緒に……いたいんだもん。


わたし、贅沢かなぁ?

普通の女子高生の、普通の望みじゃないのかなぁ?

学力だけが、価値のあることなの?


こんなに大きな気持ちに、なんの価値もないの?


「じゃあ……その日は楽しもーな」


ぽん。

と、槙十の手が、頭に乗る。


あ、これ、好き。


「ふふ、前にもこんなことしてもらったね……」

「だってなんか……弥白が……したくなる顔するから」


頭をわしゃわしゃしてた手が、頬に移った。


「槙十?」

「無理してないか? 俺が行きたいっていったから、気ぃ使ってない?」


優しい目、優しい声。


放課後の、誰もいない教室に、早くも傾き始めた日が差し込む。


埃っぽい空気。







「……好き」