「だー! コラ!」

神林くんが止めようとしても、もちろんお兄さんは話し続ける。


「俺がこいでて槙十は後ろに乗ってて。槙十があんまり速い速いって嬉しがるもんだから俺もちょーし乗っちゃって。急な坂道シャーッって下ってったら石かなんかにひっかかって、チャリがはねたのね」

「ええっ」

「そんでもう、2人とも軽かったから、スーパーマン状態で空中に放り出されちゃって」

「えええっ」

「いやもうマジにひゅーんって飛んで、ってもちろん一瞬のことのはずなんだけどあれは世界がゆっくりに見えたね! あ、マズイ、って思った。で、俺は空手習ってたからとっさに受身とろうと思ったんだけど、自分よか槙十がやばいって思って」


わたしが興味津々で聞いてたら、神林くんは止めるのを諦めた。


「かっこよく守ろうとしたもんだから、けっきょく槙十は平気だったんだけど俺が頭強打しちゃって、もうだらっだら血が流れて。ほら、頭ってちっちゃい傷でもめっちゃ血ぃ出るじゃん? そんでそれみて槙十がわんわん泣いて、お兄ちゃん死なないで~~~って」

「えっそれ、大丈夫だったんですか?」

「実際ぜんっぜんたいしたことなかったんだよね。でもこれが面白いことに……」

お兄さんが話を止めて神林くんのほうを見たので、みんなの視線が神林くんに集まる。

神林くんは観念したように、予想外のオチを話してくれた。


「……俺、そのこと話には何回も聞いてるんだけど、全くまるっきりこれっぽっちもひとっかけらも覚えてないんだよね。だから全部作り話だと思ってる!!」

「えぇー!?」

「俺の知ってる限り俺は生まれつき血は苦手だったんだよ! はいもーこの話ヤメ! 人の弱点をネタにすんな!」