ゆるゆると会話しながら筆をゆっくり動かす。
薄い色に、濃い色を重ねて、少しずつ立体感を出す。
それが、深くてうねりのある、波になる。
でもなぜか、海の青色に連想してしまうのは、神林くん。
しょっちゅうあの真っ青なバスパンを履いているせいかもしれないけど、彼自身が青色のイメージなんだ、わたしの中では。
そう、最初から彼は、晴れた空のような、広い海のような、青いイメージをもって現れた。
「笠原さんの下の名前って、なんて読むの?」
それが、彼がわたしに向けた第一声だった。
高2にあがった、始業式の日。
幼なじみの弓美と同じクラスになれて舞いあがっていたけど、弓美の苗字は和久井(わくい)だから、笠原のわたしとは席が遠かった。
チャイムの直前、緊張して席に着いた人見知りのわたしに話しかけてきたのが、神林くんだった。
背の高い彼は、わたしの隣の席に座ると長い脚を机の下からはみだして投げ出し、もう一度こっちを向いた。
黒髪短髪に、いかにもスポーツマンらしい筋の通った顔。
でも、目が少し大きいので、それが少年ぽさを醸し出している。
「や、やしろ……」
いきなりの質問にびっくりしながら、なんとか答えた、そんな感じだったと思う。
彼はわたしの様子にはおかまいなしで、楽しそうにしている。
「弥白! やしろって読むのかぁ。なんか、いい名前」
「へ?」
次には、名前を褒められた。
マイペースな人だな。
これが、神林くんの第一印象。