「神林くん」

車内で自分のスペースを確保し声をかけると、

「怒ってない! 怒ってないです」

と、神林くんは開口一番、否定してきた。

「……そーなの?」


「いや、ゴメン、忘れて。彼氏でもないのに何言ってんだって話で」


???


「はいっこの話おしまい! 今日なんで部活これてたん?」

「えーーー、一方的!」


でも喋れないのはイヤだから、よくわかんないけど、けっきょくわたしも応じる。


「今日お母さん遅いんだー。だから、鬼の居ぬ間に部活、みたいな」

「うわぁー相変わらず厳しいんだ」

「んーでも平日は忙しくて家にいないから、そんなに監視されてるわけじゃないんだけどね、たまにふらっと早く帰ってくるから、一応遅くならないようにしてるの。ほんとたまーになんだけど」


「あれ、笠原ってお父さんは?」

「都内で働いてるんだけど、単身赴任みたいになっちゃってる。事務所があるから、ほんとは通えなくないんだけどほとんど家に帰ってこないの。出張も多いみたいだし」

「え、なんの仕事してる人?」

「よくわかんないけど、建築系?」

「えーっカッコイイじゃん! 俺、建築ってちょっと興味あるんだよねー」

「えー、そうなんだ? でも忙しそうだよ~。最後にご飯一緒に食べたのいつだろ? って感じ」

「ああ、そういや前に会ったもんな」


そういえばそんなこともあった。

ファーストフード店で一緒に夕飯を食べた(正しくは食べ終わらないわたしにつきあってくれた)。

体育祭のリレーの順番を決めた時だ。


「懐かしいね! あ、ハンバーガー食べたい。今日の夜はあそこ行こっかな~」


部活を頑張った日は、家に帰ってからご飯をつくるのがめんどくさい。


「しょっちゅうそんな食事してっと太るぞー?」

「うわ、ひどい! 最近はそうでもないもん。作るのめんどくさいんだもん。神林くんだってしょっちゅう行ってたりするんじゃないの? 高校生男子ってああいうの好きでしょ」


「俺んちは母さんが家にずっといるから……あ、じゃあ家来いよ! 3駅分電車賃かかっちゃうけど、うちの飯うまいと思うよ?」


「えーすごいねー……って、はぃ!?」