「絵、描いてたの」

「うん」

「今度は赤……いや、オレンジ、か?」


さっき一気描きをしたばかりの絵を見て神林くんが呟く。


「うん……秋の色。紅葉と、鳥居と、夕日の色、かな。それと、葉っぱの影」

わたしの頭の中には、冷たい風の吹く秋が、色として迫ってきていた。

「秋が燃えてるの。炎みたいに。燃えてるけど熱くなくて、寂しい、感じ……なんてねっ」


あ、いやだな、なんか、ちょっと恥ずかしいかも。

何語ってんだろ、わたし。

描きあがった時は気持ちよかったけど、それはストレス発散に近かったから。


この絵は、わたしの心そのものを写してる。

綺麗なものも汚いものも全部写してる。


ささっと絵を移動すると、神林くんは静物画のほうに集中し始めたのか何も喋らなくなった。


どんどんどんどん外が暗くなって、わたしは先に片付けを始めることにする。


絵筆も筆洗いバケツもパレットも、朱色と黒のいろみずを垂らして、最後にはグレーになる。

手が凍りそうに冷たい。


もうマフラーの季節だもんなぁ……。


外で活動する部活は放課後の練習を少し早めに切り上げるようになってきた。


全部洗い終わって、はーっと息で手を温める。

そうしているうちに、ちょっとしたいたずら心が湧いた。