「あれ、電気もつけずに……誰もいないのかと思いました」
「先生。あ、そういえば」
秋の日は落ちるのが早い。
夢中になって気付かなかったけど、入ってきた先生が電気をつけると大分暗い部屋にいたことがわかった。
「どーぞ」
先生はすぐにはドアを閉めずに一人の生徒を招き入れた。
「神林くん!」
「あ、笠原」
偶然。
先生が招き入れたのは神林くんだった。
わたしたち、って、美術室でよく会うなぁ。
神林くんとは、朝も会わなくなり、席も離れてて、加えて昨日の美術は早退して出られなかったので、なんだか最近まともに喋ってない気がする。
「どしたの?」
「ん、また課題やりにきた」
「また?」
「あ、言っとくけど今回はそんなに遅かったわけじゃないんだよ、けどちょっと昨日、ダメにしちゃって」
今は授業でも絵を――静物画をやっていた。
アクシデントで盛大に水をかけてしまい、一から描き直しになったらしい。
「あーあ、大変だー」
「うわー他人事だと思って。ま、でもちょーどよかった。笠原最近、部活行く回数減ってるみたいだったから、ひとりでぽつんとやんなきゃかなーって思ってたから」
神林くんは先生から花瓶と花と林檎(もちろん花と林檎はニセモノ)を渡され、自然と隣同士に座る。
「僕は準備室にいますので、終わったら声かけてください」