翌日の放課後、わたしは美術室に来ていた。


春の希望に満ちた朝も好きだけど、秋の凛とした寂しい夕方も好きだな。

いつの間にか街路樹が、赤や黄色に染まりかけている。

お母さんが打ち合わせを兼ねた飲み会で遅くなると言うので、久しぶりにゆっくり作業げできてる。


『一度、一気描き、なんてしてみたらどう?』


大谷さんとは、ほんとにほとんど絵の話しかしなかったと思う。

絵を描いていると、白い紙とわたしの間にはなんの隔たりもなくなって……という話をしたら、そう言われたんだ。

どっちかと言うとわたしはいつも丁寧に時間をかけて描いてたから、なんでそんなこと言うのかわかんなかったけど。


「気持ちいい、んだなぁ……」


ためしにやってみた。

描きたいものをぐっと頭の中で想像して、一気に描きあげる。

多少線がゆがむとか、色が混ざるとか、そんなのは気にしないで。


『君はコントロールがうまいんじゃないかな』


絵を描くとき、頭の中には描きたいものがある。

でもそれと、紙に描いたものは必ずしも一致しない。

頭の中と描いたものを一致させる「コントロール力」をつけると、確実にうまくなる。


大谷さんは、わたしがそれに優れてるって言ってくれた。

だから一気に描いてもわりといけるはずって。


「一気に描くのも、勢いがあって気持ちがノるんだ」


今日はいつもより小さな紙で描いたけど、なんだかすっきりした。

次はもっと大きい紙でやるのもいいかも?