「大谷さんて、いくつ?」
「40。弥白、あんた、あの人と何話したの?」
「40! うわぁ年齢不詳! うーん、そっかぁ、お母さんよりは年下なのかあ……。あ、話は、絵とか学校のこととか、わたしのことばっか聞かれた、よ」
正直、初めの方は平静を装うのに必死で何きかれたかよく覚えてないし、後半は話すのに夢中でよく覚えてない。
不思議な男の人の姿を反芻する。
ぱっと見は30歳と言われても納得するくらい。
でも近くで見た眼は50と言われても驚かないくらい。
とにかく、変な人だった。
変な人だったけど、話はちゃんと聞いてくれた。
「珍しいわ、あの人が他人を褒めるなんて。気難しいことで有名で。クリエイターとしてずばぬけて優秀だからみんなご機嫌取りにまわってるけど。あの人の名前を出すことで交渉が進んだりするんだもの」
「ふぅん……」
わたしたちの会話は、話しにくい満員電車の中ではこれ以上続かない。
でも、お母さんの機嫌がいいことはわかった。
少しはわたしも、役に立ったってこと?
……まあ、淡い期待に応えてくれることは、やっぱりなさそうだけど。
どうしてわたしが苦手なパーティーに参加したかって……。
大谷さんが褒めてくれたわたしの絵に、お母さんが少しでも興味を示してくれないかなぁ、なんて、ちょっと甘いこと考えてたんだよね。