「何か、いいことでもありましたか」


「え?」


わたしは、いつもの位置。

窓際の風のあたるところで。

千里先生は、教室の後ろーのほうで、今日はキャンバスに向かっている。

たいてい先生としての仕事に追われているけど、たまに、思い出したように何かを作り始めることがあって。


授業中は見られない、絵を描いている先生は、実はよくしゃべる。

ほとんど独り言のようだけど。


講義は眠いし、生徒が作品をつくっている間も、助けを求められない限りぼーっとしてることが多いのに。


「いいこと……えと……友達が、増えた、かな? みたいな」


もちろん神林くんのことだけど。

ちょっと一方的かもしれないけど、一応、少しはしゃべれるようにはなってきたし、友達にカウントしてもいいよね?


「それは、いいですね。うん、友達は大切です」


先生は、そう言いながら、鉛筆をはしらせてる。


この独特の雰囲気に負けて、初めは先生の独り言だったのが今では結構、会話になってる。

先生と話すのは、なぜだか緊張しないんだよね。