こういう場では、お母さんの仕事の邪魔にはなりたくないから、一応、イイ子のふりをしておくんだ。
とりあえずにこにこしてれば、子供に難しいことを言ってくる人はいないし、お母さんは職場ではデキル人で通ってるみたいだから、変な人に絡まれたりもしないし。
「大谷さん」
「ああ、笠原さん」
「弥白、この方が大谷史哉さん。大谷さん、会いたいとおっしゃってたので連れてきてしまいましたわ。娘の弥白です」
「はじめまして、笠原弥白です」
ぺこりとお辞儀をする。
大谷さん、思ったよりずっと若い。
紺のスーツにグレーのストライプのシャツを爽やかに着こなしてる。
「ああ、君が弥白チャン!」
「あの、絵を、褒めてくださったそうで……ありがとうございます」
「いーえ、わざわざこんなとこまで来てもらって、ごめんねー」
見た目は爽やかだったけど、撤回!
なんか、軽い、この人。
いったいどんな人なんだろう……と考えていると、
「笠原さん」
ふいに呼ばれて、わたしとお母さんは同時に振り向いた。
とっさに振り向いちゃったけど、もちろん呼ばれたのはお母さんのほう。
そしてなぜかそのままお母さんは別の人と話しにいき、大谷さんと二人で取り残されることになってしまった。