「話があるんだ」

そう言って拓ちゃんはゆっくりと話し出した

「まず連絡できなかったのは携帯の電源が切れちゃって充電できなかったからなんだ。ごめん」

「なんだよそれ」

「ほんと情けないよ」

『よかった。事故とかじゃなくて』

「本当にごめん」

「…で?今まで美音のことほっといてどこにいたんだよ」

『和真!』

「いや、和真君の言う通りだよ。実は………病院にいたんだ」
『病院?!!』

「はっ?!」

『拓ちゃんどこか悪いの?!手術とかするの??それじゃあ入院してなきゃだめなんじゃ…』

「入院しなくちゃいけないのは詩音さんだ」

「はっ??」

『お母さん…??』

「どういうことだ?!」

「詩音さんが仕事場で倒れたんだよ」

「まじかよ…どれくらい入院が必要なんだ?何で倒れたんだよ」

「……………」

「なんだよ、早く言えよ!そんな倒れたって今すぐ死ぬわけじゃねぇんだし………ってまさか」

「美音ちゃん、辛いかもしれないけどよく聞いてね」

そう言って拓ちゃんは私の目をじっと見て深く深呼吸をした

「詩音さんは………白血病なんだ」
「白血病…」

「しかも末期の状態で治る可能性は10%もないらしい…」

「そんな…」

「美音ちゃん??」

拓ちゃんは少し辛そうに微笑んだ

「美音…大丈夫、か?」

和真が珍しく動揺してる

そんな風に冷静な自分がいた

「今日から入院で明日美音ちゃんもいっしょに来てほしいって担当の先生が」

「移植はできないのか?」

「すでに骨にまで転移していて無理みたいなんだ。今は痛みとかを楽にしてあげることと進行を少し遅らせることしかできないみたいなんだ」
「…美音、何かあったらすぐに言えよ!お袋たちには…しばらく黙ってる」

『ありがと』

「美音ちゃん、これから仕事終わってすぐ病院に行くことになるから家にいる時間が減っちゃうと思うんだ…」

『わかってる。私なら大丈夫だから』

「今まで散々偉そうなこと言ってきたのに寂しい思いをさせることになっちゃってごめんね…」

「拓ちゃんは何も悪くないじゃない」

「美音のことは俺に任せてください」

「ありがとう。助かるよ。和真君も巻き込んでごめんね」

「俺は別に美音のためなら辛いことなんて何もないんで…」

「ありがとう」

そんな2人の会話をただぼーっと聞いていた


それから少し何か話しているみたいだった

でもそんなの全然耳に入ってこない

何かしゃべってるなぁってそんな感じ

「じゃあ俺はそろそろ帰ります」

「うん、そうだね。巻き込んでしまってごめんね。でもありがとう。それと美音ちゃんをよろしくね」

「…任せてください。………じゃあ美音、帰るわ」

『……えっ………あっ…うん。ばいばい』

「………おじゃましました」

バタン

和真は帰っていった

『「……………」』

そしてしばらく沈黙が続いた

「……美音ちゃん、お風呂、入ってきたら??」

『………うん。そうする』

「………」

拓ちゃんは何か言いたそうだったけど私はそのままリビングを出た

バタン

それから私は何事もなかったかのように普通にお風呂に入ってリビングに入ろうとした

スッ

リビングのドアノブに触れた瞬間

「くっ………!!」


『っ………!!』

何だろう??

私はゆっくり少しだけドアをあけた

するとそこには必死に声がもれないように押し殺して泣いている拓ちゃんの姿があった

「うっ…っ!!」

あんな拓ちゃん初めて見た

悲痛に顔を歪ませてばれないように必死だった

まるで生まれたての赤ちゃんのように肩をふるわせて

『拓ちゃん…』

パッ

『あっ…』

私の声が聞こえたのか拓ちゃんは顔をあげて目があってしまった

「っ………!!!」

拓ちゃんはまさか見られてると思わなかったのかとても驚いたような表情だ

「美、音ちゃん…」


『た、拓ちゃん………』

拓ちゃんは必死に涙を隠そうとしていた

「み、美音ちゃん、あっココアでも作ろう『泣いていいよ』…えっ?」

『どうして隠そうとするの??拓ちゃんだって泣けばいいんだよ。私たち家族なんだから…私のお父さんになったからって無理に強くならなくたっていいよ。私は大丈夫だから』

「っ………美音ちゃん、ごめん…」

そう言うと拓ちゃんはときどき嗚咽をもらしながら涙を流した