バタバタバタ

『うわぁフレンチトーストだ♪』

「さぁ食べようか♪」

『「いただきます」』

『ん~♪おいしー♪♪』

「よかった、詩音さんに聞いたんだよ」

『えっ??』

「詩音さんが言ってたんだよ、美音は昔からフレンチトーストが大好きなんだって」

『お母さんが…??』

「せっかくの休みなのに家に居れないから気にしてるんだよ」

『………甘いね、これ』

「甘すぎた?!詩音さん美音ちゃんは甘いフレンチトーストが好きなんだって言ってたんだけど…」

『違う…そういう意味じゃなくて………』

「ん??」
『私別にフレンチトースト大好きってわけじゃないよ…』

「えっ??」

『ただ小さいころお母さんが朝少し時間がある日はフレンチトースト作ってくれたの。甘いのが好きなんじゃなくてお母さんが作ったフレンチトーストが甘くておいしかったの。最近は食べてなかったからなんだか少しなつかしいよ…』

「…そうだったんだね、美音ちゃんにとっての大切な思い出だね」

『別にそんなんじゃ…』

「ははっ、もう1枚あるけど…食べる??」

『……食べる』

「りょーかい」

なんだか甘くてなつかしくて…ちょっぴり苦い味がした
……………

近くのスーパーで買い出し中

『じゃがいもじゃがいも…あっ、あった。カレーとコロッケだから2袋かな』

「カレーは煮るから肉づれしにくいメークインでコロッケは潰しやすくてほくほくしてる男爵を使うんだよ」

『へぇ…そうなんだぁ』

「あとはオリーブオイルだけだね」

『何に使うの??』

「ドレッシングだよ。さぁレジに行こうか」

『うん』

「…財布渡すからお金払っといてくれないかな?ちょっとトイレに行ってくる」

『わかったー』

「よろしくね」

私はこの時気付かなかった

私たちの歯車が少しずつ壊れていってることに


「じゃあまずコロッケ用にじゃがいもを茹でようか」

『うん』

「茹でてる間に人参とメークインの皮をビューラーで剥いて」

『はーい』

「僕はその間にドレッシング作っちゃうね」

『ドレッシング作るなんて料理人みたい』

「これは僕の家に代々伝わるものなんだ。って言っても本当にただのドレッシングだけどね」

『へぇ~』

「これでよしっ!皮剥けた?」

『…うん』

「じゃあ切っていこうか。乱切りってわかる?」

『…わかんない』

「見てて。こうやって………ほら、この切り方は味が染みやすくて煮物とかに合うんだよ。やってみて」

『こ、こお??』

「あぁそれじゃ危ないからこうやって…」

まるでドラマを見ているような感覚だった

拓ちゃんの動きはすべてがきれいで繊細で…

男の人なのにきれいな手

ちょっと真剣な横顔

それに「美音ちゃん??」

『へっ??』

「どうかした?僕の顔に何かついてる?」

『な、何でもないっ!!』

思わず見とれてました、なんて言えるわけがない

「本当に?何だか顔が赤いような『だ大丈夫だから、包丁貸して』うん」

ふぅ…

危ない危ない

っ!!!!!

「熱はないみたいだね」

そう言っておでこをくっつきあわせた

『だ、大丈夫だって!!じゃ、じゃがいも、もういいんじゃない??』

「そうだね」

ドキドキドキドキ

もう拓ちゃんのせいで心臓がうるさくなっちゃったじゃない!!

人の気も知らないで…

でも、もっと触れてほしいって思った

………お父さん、なのにね

トントントントン

「この音好きだなぁ…」

『この音…??』

「包丁がまな板をたたく音。トントンってなんだかほっとするって感じかな」

『ふぅん…変わってるね、拓ちゃんは』

「そうかな」

拓ちゃんはこの音が好きなんだ…

そうぼーっとしてると

『痛っ!!』

「美音ちゃん?!大丈夫??」

そう言って拓ちゃんは私の血が出た人差し指をつかんだ

バサッ

『っだ、大丈夫、だよ』

「ちょっと待ってて」

そう言ってリビングに消えていった

あぁ今絶対私顔赤いよ…

思わず手をはらっちゃった
「美音ちゃん、はい、絆創膏」

『ぁりがと…』

「本当に大丈夫??女の子なんだから何かあってからじゃ大変なんだからね」

『うん。本当に大丈夫』

「ならよかったよ。どうする?少し休んでる?」

『やる!!ちゃんとやる』

ニコッ

「よし、じゃあ気をつけてね」

『うん』

はぁ…

何か今日で5年くらい寿命縮まったような気がする…

そんなこんなで初めての料理はなんとか完成した

「いただきます」

『いただきます』

拓ちゃんと作ったんだし味は大丈夫だと思うんだけど…

「おいしい」

『…うん、おいしい♪』

「美音ちゃん、初めての割には包丁の使い方とか上手だね。普通初めからこんなきれいには切れないよ」

『ほんと?!』

「うん♪ほんとほんと」

自然と頬の筋肉が緩むのがわかった

『また教えてよ』

「いいよ、じゃあこれから毎週2人で作ることにしようか」

『いいの?せっかくの休みに…』

「どうせ作るんだったらいっしょに作った方が楽しいしね」

『やったぁ♪♪じゃあ次はオムライスがいい♪』

「了解」