笑っているその表情とは反対に、陽平の声はだんだんと暗くなっていく。

「けど、彼女には心に決めてたヤツがいた。

俺よりも後に出会ったくせに、彼女はそいつと駆け落ちした。

俺の前から逃げて行った。

彼女は俺じゃなくて、そいつを選んだ。

裏切られた気分だった」

その時のことが頭の中に浮かんだ。

それを消すように、陽平は唇を噛んだ。

少しでも気を抜かすと、躰が今にもバラバラに壊れそうで怖かった。

「今思うと…プライドを捨ててでもいいから、彼女を探せばよかったと思う。

そいつから彼女を奪えば、今の俺はまともだったんじゃないかって思う」

千広に気持ちを悟られないように、陽平はハハッと声を出して笑った。