(あ…今日もいる…)

僕は肩にかけた学校指定のカバンを、ブレザーに引っ掛からないように背負い直した。

秋晴れの気持ちのいい朝日が差し込むホームに、電車が滑り込んでくる。

でも僕にとってはそんなことどうでもよかった。


キキーッ!

電車が最後に大きなブレーキ音を奏でながら停止した。

探すまでもなく、僕は彼女を見付けた。

毎朝のことなのだ。

いつもの電車

いつもの車両

そしていつもの席…

開いたドアの向こう側。

長椅子の一番端の席だ。

彼女の髪を、ドアが開く際に車内に吹き込む風がゆっくりとゆらす。

彼女はその長い髪をゆっくりと耳に掛け直し、また読んでいた本に目を落とした。

たったそれだけのこと。

それだけで、そこが朝の通勤電車のであることを忘れさせ、夢の中へといざなっていく。



自己紹介が遅れた。
僕の名前は里宮海人(さとみやかいと)。
大旗ヶ丘学園(たいきがおかがくえん)の高校3年生だ。

うちの学校は中高一貫の進学校。

ほとんど全員が進学するから、夏休みあけの9月で、部活もすっかり引退し終わった今では、すっかり受験ムードだ。

男子校であることも手伝い、校内にはなかなかどうして殺伐とした空気が流れているのである。



僕は電車に乗り込み、彼女が座っている長椅子の一番端の席の隣に立った。

ここは…僕のいつもの場所。

彼女を初めて見てから1ヶ月。

それから毎朝、僕と彼女の位置は決まってこうだ。

いつもの電車

いつもの車両

いつもの…立ち位置…


彼女が…気付いてるかは…分からないけれど………