そんな楽しい会話で盛り上がっていたのが、ほんの二時間ほど前の事。
 大樹は今、ベッドに倒れ込んでいた。
 しかも、祭りで騒ぎ疲れた帰路の途中、件の吸血鬼に襲われるというおまけ付き。
 だから、いくら近道だからってあんな人通りの無いあぜ道を通るのは止めよう、って言ったのに。
 とりあえず、彼には対吸血鬼被害用の秘薬を使用してあるお陰で、今は特に辛そうにしている様子はない。
 むしろ呑気に寝息をたてている位。
 けれど、目が覚めた時までに治っているかどうかは、はっきり言って微妙な所だと思う。
 治っていなければ、彼は再び地獄の苦しみを味わう事になるはずだ。
 ちなみに私は無事だった。
 吸血鬼にとって、私よりも大樹の方が美味しそうに見えたのだろう。
 居るよね、そういう人。
「……この部屋も安全とは言えない、かな?」
 一人ごちてみるものの、当然誰からの返事も無かった。
 そもそもここは大樹の自室、私達二人しか居ないのだ。
 こんな密室に入って来られる奴が居るなら、それはもう吸血鬼くらいしか居ないだろう。
 そういえば、ヴァンパイアって影に潜ったり霧に姿を変る事も出来るんだっけ?
「薬ねえ……よくこんなのを自室に持ってたよね、大樹」
 まあ、時期を鑑みればむしろ当たり前かな?
 勝手知ったる彼氏の部屋。
 薬はすぐに見つかった。
 クローゼットの中の小さな小物入れの中。
 彼は普段使わない小物を、よくその中に放り込んでいた。
 ちなみに、その秘薬の成分について興味本位で調べてみた事もあるけれど、体育会系の私のにわか知識では理解出来なかった、という苦い経験があったりする。
 うん、私が強いのは怪しい専門知識じゃなくて、むしろ雑学の方。
(雑学と言えば……)
 ヴァンパイアに血を吸われた人間は、その下僕として下位のヴァンパイアになってしまうのだとか。
 そして質の悪い事に、ヴァンパイアは自らの命を繋ぐ栄養として吸血行為を行うのではなく、それを娯楽か何かのような感覚でそれを行うという。
 なるほど。
 大樹を襲った吸血鬼も、仲間を増やす為に吸血を行ったのだ。
 自らの栄養とする為ではなく、仲間を増やす為だけに。
 それはつまり。
「あれをやっつけないと、吸血鬼はどんどん増えていく──!?」