バイト先の店長命令で、黒髪の短髪。
 苦笑すらどこか子供っぽい、やんちゃな笑顔。
 小物やアクセサリの収集が趣味で、今もチェーンのアクセサリを、首と腰にぶら下げてけている。
 愛用している半袖の明るい緑色のパーカーに、動き易そうな青のハーフパンツ。
 大学の二年生。
 蒼井大樹(アオイ ヒロキ)。
 同い年の、私の彼氏。
「あちち……」
 出来たてのたこ焼きをつつきながら、大樹は幸せの表情を顔全体で表現している。
 まったく呑気なものだなあと思いつつも、そうだよねと相槌を打ち、私はタコ抜き焼き(衣だけとも言う。邪道は重々承知しているけど、私はタコ焼きの匂いは好きなもののイカやタコが苦手なのだ)。を頬張った。
 香ばしい風味が口一杯に広がり、つい表情が緩んでしまうのを自覚する。
 相手に合わせてこちらは動き、こちらに合わせて相手も動く。
 なるほど。
 餅つきも会話も、もしかしたら大差ない作業なのかもしれない。
 単純な、しかし楽しい作業。
 ぺったんぺったん。
「そう言えば、さ」
「ん?」
「最近、出るんだっけな」
「……うん」
 安っぽい味にも飽き始めた頃、彼は突然に話題を切り替えてきた。
 それは、新聞やテレビを滅多に見ない大樹に、私が教えてあげた奇妙な噂。
 最近、夜になると姿を現し、人の生き血を飲んで去っていくナニカが出没している、という噂。
 ──吸血鬼の噂。
「犠牲者は多いんだって、結構。テレビでも言ってたよ」
「マジか。ヴァンパイアね……正直、信じられないな。現実感が無さ過ぎる」
 とは言いながらも、犯人はどんな奴だろうとか、吸われた奴はどうなったとか、大樹はぶつぶつと独り言を呟きながら、大真面目に考え込んでいる。
 無論、私はヴァンパイアの存在なんて信じてはいない。
 それはあくまでも架空の怪物であり、人間の心が生み出した空想の産物だからだ。
 言ってみれば、神や悪魔、宇宙人やツチノコなんかと同類なのである。
 実在するかもしれないけれど、それを証明する事は出来ない──そういう物。
 けれど私は一生懸命に頭を捻っている大樹を見るのが楽しくて、つい話に乗ってしまった。
「そうだ! 夜しか出ないって事は、やっぱり伝承みたいに太陽の光で灰になっちゃったりするのかな?」