大気を震わす轟音が響き、それに一瞬だけ先じて闇の中をまばゆい光が走って散った。
 地上には、どこからこんなに湧いてきたのかというほど大量の生き餌が、所狭しとひしめき合ってている。
 餌。
 そう、彼等は餌なのだ。
 それが万物の霊長と傲り、自らが食物連鎖のピラミッドの頂点に君臨していると本気で信じ込んでいて、自分達に天敵はいないと豪語し、実際に彼等のほとんどは何者に捕食される事も無く天寿を全うしているにも関わらず。
 しかし、やはり彼等は餌なのだ。
 被捕食者なのだ。
 その中には当然のように私も含まれていて、だからこそ私は本来ならば捕食者である敵をもっと警戒すべきだとは思うのだけれど。
 しかし私は、少し臭う魔除けの薬ではなく、普段は滅多に使わないほのかに甘く香る香水なんかを使ってしまった。
 服装だって、そうだ。
 流石に宇宙服とまではいかずとも、こんなヒラヒラした可愛らしい花柄の浴衣なんかよりも、丈夫で隙の無い服装で出歩くべきだったと、後悔せずにはいられない。
 河川敷及びその周辺。
 午後八時過ぎ。
 花火大会。
 彼氏とデート。
 ……どどん、と太鼓を叩くような豪快な音が響き、星が煌めく夜空のキャンパスに、大輪の花が咲いた。
 さっきのよりも少しだけ規模が大きく、色合いも鮮やかで綺麗。
「……由加? どうかしたか?」
「えっ? 私、何かヘンな事でもした?」
 特に心配している風でもなく隣から話し掛けてきたのは、勿論私の彼氏だ。
 私も、適当に返事を返す。
「んにゃ。でも何か心ここに在らず、って感じだったからさ」
「そう? 気のせいだよ、きっと。あ、あの屋台から何かいい匂いしない? 食べていこうよ!」
「お前なあ、もう少し俺の財布の心配を──」
「じゃあ、財布の心配だけ。中身はまだ大丈夫だよね?」
「鬼だな」
「天使だよ」
 そんな会話をしながらも、「まあいいや、俺もまだ食い足りねえし」と呟く彼氏は、私に倣って焦げたソースの香る屋台へと向かうのだった。