「凶器は見つけたな。あとは動機とトリックか──ああいや、動機もトリックも無し、俺はただの巻き添えか?」
「して、名探偵殿。犯人は一体……?」
「犯人はお前だ由加ぁぁぁぁぁッ!!」
「うひゃ〜っ♪」
 ぽこん、と大樹の拳が私の額に直撃した。
 手の動きはゆっくりだったから躱す事も出来たけれど、私は甘んじてそれを受ける。
 手加減に手加減を重ねた一撃には、デコピン程の威力も無かった。
 と言うか、バレバレだったようだ。
 あれ?
 そう言えば大樹、さっき浴衣の美少女にぶっ叩かれた夢を見たって言ったっけ?
 ……私?
「分かってたよ」
「うん?」
「いま町に現れて騒がれてるって吸血鬼の正体」
「いつから?」
「最初っから」
 ま、そうだとは思ってたけどね。
 彼は賢い。
 異様に頭が良い。
 それは学校の成績が良いという意味ではなく、むしろ私の方が成績は良いくらいだけれど、私は彼の頭には敵わないと自覚していた。
 観察力。
 分析力。
 判断力。
 発想。
 機転。
 理解。
 何を取っても私なんかじゃ及びもつかない。
 彼はじっくり考える事においては、天才的だった。
 だから。
 私の吐いた子供騙しの嘘の数々なんて、きっと一つ残らず看破されているに違いない。
 今回の吸血鬼の噂も。
「そっか、最初っからかあ……」
「ってのは嘘で、実は野良犬に追い回されてる時に気付いたんだ」
 そんな訳で、彼も嘘吐きなのだった。
 彼が本気で嘘を吐き通したら、きっと詐欺師どころか天使だって騙せるに違いない。
 ……天使なんてファンタジーな代物が実在すれば、の話だけど。
「あのピンチの中、そんな事考えてたんだ」
「追い込まれた方が、冷静に頭が回るんだよ、俺。背水の陣って奴?」
 つまり、普段は頭が回らないようだった。
 駄目駄目だった……まあ、知ってたけど。
「じゃ、吸血鬼の正体は何?」
「吸血鬼とヴァンパイアは別物、だろ?」
 正解。
 けど、彼はまだ続ける。
「夜しか出ないってのは言い過ぎだな。でも、明るい内……ってか暑い時間帯はあんまり動き回らないもんだ、連中は」
 うん、それは私の言い方が悪かったかも。
 正解。