気が付けば、朝日が差し込んでいた。
 東側の窓からは、清々しい日の光が無遠慮に侵入してくる。
 ……もう、吸血鬼は居ない。
 一体だけだと思っていた吸血鬼は、最終的には四体まで増えていたのだ。
 餌の匂いに誘われて、奴等は次々と現れる。
 が、三体は私が始末した。
 辛うじて討ち損じた一体も、日が昇るよりも前に逃げ出してしまった。
 ……私の、勝ちなんだろうか。
 今はカーペットの上に転がっているこの武器は、既に三体分の吸血鬼の血を浴びていて、もはや誰が吸血鬼で誰が獲物なのかも分からない。
 それほどの激闘がこの部屋で繰り広げられ、しかも一夜にして完結してしまったのだ。
 ベッドの上には、彼氏の骸。
 私が思い切り打ち据えた、彼氏の首。
 私は、本当に奴等に勝ったと言えるのだろうか──
「なーんてね。 ほら大樹、いつまで寝てるわけ? 早く起きた起きた!」
「うーん、あと五分──ああいや、十分でもいいや……」
「増えてるじゃないっ!」
 誠意の欠片も無かった。
 大樹の寝起きが悪いのは、今に始まった事じゃないけど。
「んー……それより、何だ。 昨日、すげえ変な夢を見た気がする……」
「夢?」
「浴衣の美少女に、棍棒で思いっきりぶっ叩かれる夢……」
「……大樹って、そういう願望とかあるわけ?」
「無えよ! どんな趣味だそれ!」
「じゃあ、代わりに私がぶっ叩いてあげようか?」
「いらねえ! ってかそれはただの体罰だ!」
「大丈夫、私は絶対に手を抜かないから」
「待て! それは体罰じゃなくてただの痛い罰だ!」
 いつも通りの、楽しいやりとりだった。
 会話中に、大樹には悟られないようさりげなく血塗れの凶器を蹴って、パイプベッドの下に隠すおちゃめな私。
 証拠隠滅完了!
 凶器は既に失われた!
「……まあそれは置いといて。 大樹、体調はどう?」
「あー、それが最悪。全身筋肉痛で、正直寝返りうつのも億劫なくらいだ。全力で逃げ回ったからな……流石に昨日は命の危険を感じたよ。 由加は?」
「私は平気。確かに浴衣じゃ走りにくかったけど、大樹が囮になってくれたから……それに私、陸上で長距離走やってんだよ? 大樹よりは体力あると思うんだけど」
 違いない、と笑い合う私達。