それは高校二年生になったばかりの春だった。

「あっ、七海と離れた。うわっ、優くんもいない!」

「小野のときのほうが残念そうに見えるんだけど」

目を細めて口をとがらせる七海。

私はにっこりと微笑んで、思いっきり七海に抱きついた。

「何言ってんの! 七海も大好きだよ~」

「言葉半分に受け止めとくわ」

私の愛情表現をさらさらと受け流す七海は、

「あっ」と声を漏らすと、私の肩をとんとんとつついた。

「ん?」

七海から離れて振り向くと、そこには愛しの優也がいた。

すらっと背が高く、きりっと整った顔立ち、

ほどよく筋肉のついた腕がシャツの袖からちらりと見え隠れする私の彼氏。

世界に2人といない、自慢のイケメン彼氏!

「おはよう」

「おはよ~!」

目が合ったとたん、優也は私をふわりと抱き寄せた。

優也の腕の中にすっぽりと包みこまれる。

私の中で一番幸せな瞬間。

「はいはい、いちゃいちゃは人のいないところでやってね。

 見てるほうは痛くもかゆくもなんともないんだから」

背後から七海の声が聞こえるけど、無視。

今は優也と2人だけの世界を楽しむ。

「優くんと離れちゃった」

「まじかよ~。ショック。でもまあいいじゃん」

「え~、よくないよ」

「大丈夫だって。毎日会いにいくからさ」

「もう~…大好き~!!」

「俺も大好き~!!」

優也とのラブラブタイムを終えて、私はやっと新しい教室に足を踏み入れた。

大掃除したはずなのに、どこかほこりっぽい教室。

私は黒板に書かれてある座席表を見て、自分の席についた。

提出用の書類や春休みの課題を整理していると、

隣の席に1人の男子が現れた。

「おは~」

「おは…よう」

頭の上から声がして、私は整理を止めた。

唇をゆがめてにやりと笑う彼に、私は不審感を覚えた。