「――っ!」
俺は反射的に目を閉じた。
そして閉じたと同時に、ベルトのガチャンという音が聞こえた。
「………」
その音に反応して目を開くとそこには想像した通りの光景があった。
……うん。そうなるよね、普通。分かってたよ、俺分かってたよ。
でもコイツの思考だけ分からない。…なんで、そうなった?
なんで、なんで……
「――ズボンを脱いでんだよ?」
……そう。落ちたのは先輩じゃなくて…ズボン。
先輩がさっき手をかけたのは、紛れもなく制服のズボン。
「これが俺が考えた刑!」
「は、これが刑?ズボンを脱ぐのが刑?めちゃくちゃ迷惑な刑だな…。
――つか、それ俺のパンツぅ!」
ズボンを脱いだ先輩は当たり前だがパンツ大公開中。
…間違いなくそのパンツは俺のだ。見間違いかと思って三度見をしたが俺のだ。
そして先輩は……パンツ一丁だ。
「そしてそして俺は、パンツ一丁の先輩に押し倒されている。…なぜ?」
気が付いたら先輩はYシャツも脱いでてパンツ一丁。そして俺は、ソファーに押し倒れていてた。
…なんで俺パン一に襲われかけてんの?
相手はパンツ一丁だよ?しかも、サイズが違うからちょっと膨らみが強調されてるパンツだよ?
「まぁまぁ、よく考えてみろ。
ほらさ、この格好…ヤりやすくね!?」
「……は?」
「途中で脱ぐ時間もかかんないし、それに制服が汚れることもない…。ヤベ!俺、天才――っ!?」
そんな天才の真ん中に一発ストレート!
変な声を上げ吹っ飛んだ先輩は、真ん中を両手で押さえビクともしない。
……もう、そのパンツは俺のじゃない。つか俺のだと思いたくない。
「――で、話しを戻すけど先輩はなんで俺ン家にいんの?」
「あぁ、えっと…」
痛みが引いたのか、先輩は服を着始めた。
…出来れば今すぐにでも出て行ってもらいたい。
これ以上コイツの顔を見てると吐く気がする。まぁ、心の中では部屋が埋まるほど吐いてるけど。
「いやさ、昨日憂太のお母さんの里江さんに頼まれたんだよね!『紅蘭くん、憂太をよろしくね』って」
「……」
「…憂太?」
「………な、なにその…
恋愛小説みたいなパターンンンっ!
その『よろしくね』はどうせ『同居してね』っていう意味なんだろ?知ってるよ、恋愛小説でよくあるパターンだよソレ!」
何故だか知らないけど、俺は母親に裏切られた気分になった。
…まさか母ちゃんが俺を変態に捧げるなんて…。そんな人だと思わなかったよ、俺。
「さすが憂太くん。
…そう、俺達は今日からラブラブでギシギシでエロチックな同居を始めるのだよ!」
「黙りやがれ無限欲情男!」
なんで俺がこんな奴なんかと同居をしなきゃいけないんだ。
なんで、なんで…
「――んっ!?」
こんな奴なんかに、キスをされなきゃいけないんだ。
いきなりのことにビックリして目を開いていると、先輩がそんな俺を見て笑みを浮かべ舌を入れてきた。
…一週間ぶりの、キス。
「――っと、大丈夫?」
「…っ」
久しぶりにキスをされてつい力が抜けた俺を、先輩は素早く片手で支えた。
すると、先輩が耳元で「さあ、憂太。…ヤろうか」とか言ってきたから殴っといた。
「なんで?なんでダメなんだよ…。
――ハッ!もしかして憂太、お前…下じゃなくて上がいいとか?
そうかそうか、俺に入れたいのか!なんか照れるけど俺は憂太をちゃんと受け入れるよ。よし、来いっ!」
「…先輩、別れようか」
「……すみませんでした」
…なんで俺、こんな奴と付き合ってるんだろう。
「……」
「憂太?――え、ちょ!」
とりあえず、キスが気持ち良かったと思ってしまった俺も殴っといた。…ついでに顔が熱いからもう一発。さらについでに心臓がバクバクしてうるさいからもう一発。
またさらについでに…
「待て待て待て!なんで自分を殴ってんだよ!SMプレイ?まさかのSMプレイか?
プレイを楽しんでる所悪いんだけど、これ以上殴ると憂太の見てると興奮するプリティーな顔が――…」
「うおりゃ!」
「ぶほっ!なんで俺を殴る!?」
「…なんとなく」
――それから俺は母ちゃんに電話をかけ、かれこれ三時間もこの状況の苦情を言い続けた。
その結果「帰りにチーズケーキを買って帰るから!」の言葉で俺は先輩の泊まりを即オーケイした。
…だって、先輩よりチーズケーキの方が好きだからね!
「俺はチーズケーキ以下かぁ~…っ」
「はいはい、チーズケーキ以下だから大人しく黙っててねー」
俺は笑顔でそう言って泣きじゃくる先輩の指に絆創膏を貼った。
…なんでかと言うと、
さっきの電話を聞いてショックを受けた先輩が狂い、なぜか出来もしない料理を作ろうとして包丁で指を切ったから。というくだらない理由です。
「先輩ってホントめんどくさい」
「…ごめんなちゃい」
「……心臓、刺してあげようか?」
「ごめんなさいっ!」
謝る時に「ごめんなちゃい」なんてゆー高校生、今時いるか?…全国の高校生に是非質問したい。
俺はそう思いながら夕飯を作るためにキッチンへ向かった。
「先輩、なに食いたい?」
「んーそうだなぁー、ハンバーグか唐揚げかオムライスか……あ、そうだ!」
「ん?」
「…俺は、憂太が食いたい。詳しく言うと全裸の憂太が食いたい!」
「うん、やっぱり刺してあげる!」