追いついて母さんの腕をつかんだ。


母さんが振り返る───白いセーター、長くて黒い髪。


振り返ったその顔には目がなかった。


母さんの顔の中心に暗い穴ぼこが二つ開いている。


「母さんじゃない……」


僕は顔を背けた。見たくない。


母さんじゃない。


綺麗だった母さん、でも顔を思い出すことはできない。


ガリガリに痩せて目のない女が僕に抱きついてきた。


とっさに突き飛ばした。


女がしりもちをついた。


地面に転がった女が喋った。


「オマエハ、ズット、ヒトリダ……」


雑音の混じったひどく聞きづらい声だった。