そして、ちよりさんは親父がトイレに行った隙に目を合わさない私に言い放った。

「私、あなたのお父さんと結婚するつもりはないから」


その見下したような含み笑いが許せなかった。

ちよりさんを睨みつけると目の前にあったウーロン茶の入ったグラスを掴み、茶色く濁った液体をちよりさんめがけて投げつけた。


気付くと、私は我留舎を飛び出していた。

我留舎の前には川が流れ、川向こうの街灯が水面に映り揺れていた。



早くここを離れたいのに足が動かない。

知らない街で、どこに行きようもなかった。

私には帰る家がないんだと今さらながらに気がついた。



揺れる川面を眺めているうち、涙がこみ上げてきた。

泣いちゃいけないと思うのに後から後から涙があふれてきた。