役者としての地位を確立し、小説家としても多忙な日々を熟していた江口亮介は、仕事、家庭ともに順風満帆な日々を送っていた…。
亮介は、付き合いのある出版社の社長から、会うたびに必ず、「自伝小説を書いてほしい…」と、言われ続けていたのだが、まったくその気にはなれず、断り続けていた…が、しかし遂に根負けをして、自伝小説の依頼を、しぶしぶ承諾していた!
ただし、条件付きではあったが…

亮介は、単なる自伝小説よりもまず、自分の過去の出来事の中で一番書きたかったもの…いや、書かなければいけないものがあった…

今回特別に、それを交換条件として、まずラジオでの発表をさせてもらう事にしたのだ…。

亮介は何も今、自分の過去をさらけ出して冒険する必要はなかったのだが、役者魂に火が着き、自らの思い出を自らが演じる(再現する)事で、かつての衝撃的な出会いと別れに、ピリオドを打つことにしたのだ…。

おそらくこのようなラジオという媒体を通じて披露する方が、小説を書くよりも、プレッシャーがかかる事も、承知の上なのだが…亮介はあえて自分の立場を追い込み、それに挑戦する事に決めたのだ…

亮介は、この話だけは、楽をして発表する気にはならなかった…





そして出版社の社長を通じ、某FMラジオ放送局に録音依頼をするのだが…


その録音スタジオのチームリーダーは酒井さんという50才近くの女性で…運命のいたずらとしか思えないが、その話の内容の…、相手だった…。