☆新崎 朱音(にいざきあかね)
高校受験を控えた平凡な中学生。
空手道場を営む家に生まれた、長女。
☆新崎 真咲(にいざきまさき)
朱音の生意気な弟。将来は父の跡を継ぐと決めている。
☆フェルデン・フォン・ヴォルティーユ
サンタシ国の王子。騎士団を指揮する指令官も務める青年。
剣の腕ではレイシアでも名を知られている。
☆ヴィクトル・フォン・ヴォルティーユ
サンタシ国の国王。フェルデンの実の兄で、平和をもたらした王として賢王と民に親しまれている。
☆アザエル
魔王ルシファーの側近。碧髪碧眼の美貌を兼ね備えているが、感情をまるで持たない冷徹な男。
☆ロラン
サンタシ国の王、ヴィクトル直属の術師。結界術に長けている。
霞がかった茶の髪と眼をもった、十三歳程の少年。根はいいが、毒舌。
☆エメ
サンタシ国の白亜城に勤める侍女。朱音の身の回りの世話を任される。
ロージ村出身で、ハーブに詳しい。
☆ルイ
ゴーディア国でアザエルに命じられて朱クロウつきになった少年。
霞がかった灰の髪と眼をもち、ロランと瓜二つの顔をしている。性格はとても温厚。
☆魔王ルシファー
ゴーディア国の国王。強大な魔力を持ち合わせている。
漆黒の髪と透けるような美しい肌、見た者の視力を奪うとも言われる程の恐ろしい美貌をもつ。
千年前に天上界から追放され、レイシアに降臨したと言われている。
☆クロウ
魔王ルシファーの息子。儀式により長い眠りについていた。
ルシファーを生き映した姿をしており、父同様の強大な魔力をもつ。
☆ユリウス・ゲイラー
サンタシ騎士団の小柄な騎士。フェルデンの部下であり、幼馴染み。
フェルデンの兄弟弟子でもあり、剣の腕は確か。
☆ディートハルト・アルデンホフ
フェルデンの剣の師。かつてはレイシアの三剣士と呼ばれる程の剣士であった。
老いてはいるが、屈強な身躯をもちあわせている。
顔面のケロイド状になった大きな古傷がトレードマーク。
☆フィルマン
サンタシ王家に仕える医師。かなりの高齢。
☆ヘロルド・ケルフェンシュタイナー
年齢不詳の痩せ身で醜い男。アザエルの後釜におさまった、新しい司令官。
良からぬ企みをしている。
☆クリストフ・ブレロ
ゴーデイアの魔城に出入りを許される、腕利きの美容師。
謎多き紳士。
☆クイックル
クリストフの近くにいる、世にも珍しい白鳩。
☆トマ・クストー
ゴーディア国の魔城で護衛を務める、近衛兵の一人。
☆アレットおばさん
キケロ山脈の山中で、夫と自給自足生活を送る中年の女性。
とても気立てが良い。
☆フレゴリー
ゴーディア国のボウレドという街で、街医者をしている男。
医術に関しては神の腕を持つ。
☆アルノ
サンタシ国の船、リーベル号の船長。
☆ファウスト
別名:F(エフ)
真っ赤な髪と緋の眼、褐色の肌をした青年。
☆ボリス
立ち寄った街リストアーニャで、朱音達に助けを求めてきたトカゲのような男。
魔光石について何か情報をもっていそうな気配。
☆ベリアル王妃
魔王ルシファーの正妻。大商人コンコーネ家の一人娘。
アプリコット色の髪に、可憐な容姿をもちあわせている。
ルシファーをとても愛しているが、クロウには冷たくあたる。
☆??
魔王ルシファーがただ一人愛した女性。
いつも傍にいるらしいが、誰かは未だに謎のまま。
☆メフィス・ギュンツブルク
ゴーディア国、黒の騎士団の副司令官。
植物を操る魔力をもちあわせている。
☆ライシェル・ギー
ゴーディア国、黒の騎士団指令官補佐。
琥珀色の髪と眼をもちあわせている、盲目の槍使い。
また、魔笛をつかい、ありとあらゆる動物を意のままに操る魔力をもっている。
タリア
ゴーディア国、黒の騎士団唯一の女騎士。
少年のように海松色(みるいろ)の髪を刈り上げている。とても有能。
☆アレクシ
サンタシ国、サンタシ騎士団の第三隊隊長。
☆ノムラさん
レイシア一の巨大鳥ゾーン。気性が荒く、とても人の手で手懐けられる鳥ではない。
名前は朱音がつけた。
☆スキュラ
真っ黒い鱗の飛竜。まだ子どもでクロウと血の契約を交わしている。
☆ヒュドラ
ファウストの赤き飛竜。口から炎を吐き出す。
後にクロウがこの竜に”ヒュドラ”と名付けた。
ひどく寝苦しい夜だった。
嫌な夢をみた。
狭苦しい箱の中に閉じ込められている圧迫感。早く解放されたいのに、なぜか身体がピクリとも動かない。暗闇の中でなんとか声を出そうとするも、それさえも適わない。苦しさで喘ぎそうになるその瞬間、ふっと身体が浮き上がるような気がした。
いや、これは夢ではない、実際に浮き上がっているのだ。
「ん・・・」
重い目をなんとかこじ開けると、薄暗闇の中で自分が誰かに抱えられている格好になっていることに気付いた。
「え・・・? ちょっ!」
慌てて身じろぎして身体を突き放そうともがくが、ほとんど効果は見られない。先程、なかなか寝付けなかった朱音は、数時間ベッドの上で寝返りをうってばかりいたが、確かに一刻程前に浅い眠りに落ちたばかりだった。なのに、今はこうして見知らぬ者に抱きかかえられている。これは誘拐か何かの事件に巻き込まれた以外に考えようがないではないか。
「起こしてしまいましたか・・・」
すぐ上から降ってきたのは、意外にも落ち着いた男の声。
「なにすんの!? はなしてってば!」
抱えられた手足をバタつかせるが、男の腕に力が加えられてそれも呆気なく封じられてしまう。
「ご無礼とは承知でお迎えにあがりました。今ここでお放しすることはできません。時間に限りがありますので」
月明かりで男の顔がうっすらと浮かび上がる。吸い込まれそうな冷たい碧い瞳。息を呑む程の美しい顔立ちは、見慣れた大和の顔立ちではなかった。瞳と同じ碧い髪は長く、一つに結わえられている。全てにおいて整いすぎている男の表情は、“冷たい”という言葉が適切な表現のようにも思える。
「あ、あなた、誰・・・?」
瞬きをするのも忘れて、大きく目を見開いた朱音はかろうじてその言葉を発することができた。
「私は魔王陛下の側近、アザエルです」
男の言葉の意味が理解できずに、咄嗟にまだ自分が夢の中にいるのではないかと、朱音は首を捻った。
「魔王陛下・・・?」
気がついてみると、ここは屋外。月の光が妙に明るいのはそのせいだったのだ。
「えっ、ここどこ!?」
これが夢でなければ、朱音は謎の外人に自宅から抱きかかえられたまま外に出て来てしまっているということになる。しかも、男が今歩いているのはどこかもわからない山の中。
さやさやという葉の音やどこかで梟が鳴く声がする。ジーという虫の声はますます周囲の静けさを際立たせていた。
「時空の扉です。考えていていた以上にあなたを見つけ出すのに時間がかかってしまいました。扉の向こうでは既に追手が迫っています」
身動きがとれない体勢の中、朱音は無理矢理首を起こすと、視界に入ってきた信じられない光景に絶句した。
山の奥のほんの少し開けた場所に、暗闇の中ぽっかりと口を開ける金色の光。穴の大きさは人が一人腰を屈めてならなんとか収まる程のものだ。
しかし、光は今尚縮み続けていて、あと数分もすれば人さえ入り込めない程になってしまうだろう。
「ま、待って待って! 時空の扉って?」
嫌な予感がして朱音はもう一度この腕から逃れようと身動ぎして声を張り上げるが、
「申し訳ありませんが、今はゆっくり話している時間はありません」
というアザエルの厳しい言葉に制され、朱音の言葉は掻き消される。
腕の中で暴れる朱音の身体を一際強く抱き締めると、無言のまま光の中へと足を進めていく。
「放して! 一体わたしが何したっていうの?」
光の中に吸い込まれる瞬間、朱音の声が山の頂上に木霊した。
この時の朱音はまだ、自分を待ち受ける数奇な運命を知る由も無かった。