歌う気満々の二戸 梨杏はマイクを持ったまま店員の顔をじっと見ていた。
「ねぇ、もう歌ってもいい…?」
「あっ、あぁ…―。どうぞ、歌って下さい!何か用事がある時は部屋の中についている内線電話でいつでも呼んで下さい。私が参りますので―」
店員がそっとドアを閉めた。
「はぁっ~~~」と溜め息をついて項垂れながら受付へ戻る店員。
101号室から二戸 梨杏の歌声が聞こえてくる。
店員が耳を澄ませる。
なかなかの大きな声量に加えて、歌が驚くほど上手い!
店員は忍び足で101号室に再び近づき、二戸 梨杏に見つからないように小さな窓ガラスからそっと中を覗く。
黒いマイクを両手でしっかりと握りしめながら熱唱している二戸 梨杏の姿が見える。