――二戸が俺を呼んだのは知っていた。
だけど、何を話していいのかわからない。
慌てた手つきで小鉢に玉子を割って入れ、箸を持ち、“いただきます!”の挨拶もせずにすき焼きを急いで食べようとする中村先生。
すき焼きのだしが染み込んだ熱々の牛肉を生卵の中にさっさと入れて口の中へ運ぶ。
口の中に入れたのはいいもののやはり熱かったのかハフハフと口を動かしながら牛肉を必死に噛んでいる。
やわらかい牛肉。
しかし、高級な国産牛のはずなのに、まったく味がわからない――。
牛肉を飲み込もうとした瞬間、二戸 梨杏が中村先生に話しかける。
「先生、すっぴんどうかな?」
――単刀直入。
まだそんなに冷めていない熱い牛肉が喉の途中で止まり、思いっきりゲホッゲホッとむせる中村先生。
落ち着いて、冷静を取り戻す。