彼の腕の中はとても暖かくて・・・
いい香りがした。
久方君だけの・・・特別な香りが。
「お・・・おまっ・・・ないてんの?」
「ないてなんかいないもん」
でも私の目からは涙が零れ落ちていた。
久方君が優しすぎて・・・
「お茶入れてくる」
私はそう言って立ち上がった。
お茶を入れながら彼の背中を見ていると、たくましい・・・でもなんだか悲しみが感じられた。

私たちは結局遊園地にいた。
ジェットコースターにお化け屋敷。
カップルでもないのに・・・
なんだか久方君は世界が違うみたいで・・・
特別な人間のように感じる。

「ぎりりりりりりり」
目覚まし音で私は目を覚ました。
いけない。いつの間に明日になったのかな・・・
あわてて制服に着替えてパンをくわえた。
そして遅刻寸前に家を出た。
いつもなら6時の目覚ましで起きるのに、今日は予備の6時半の目覚ましに助かった。
慌てて走ってやっと校舎に入ったとき、肩をたたかれた。
振り向くと・・・わけがわからない。
私の唇に何かやわらかいものが触れている・・・
何もしゃべれなかった。
そのやわらかいものが徐々に遠ざかっていって。
やっとそれが誰かの唇だと思った。
顔が見えたときには、そこには杉田君がいた。
頭がいいバスケ部の少年・・・
私のクラスで、久方君と並ぶくらいの人気がある。
間近で見るとシュンとした目がかっこよかった。
でも・・・なんで?・・・ 何で私に・・・キスをしたの・・・?
「っふ 可愛い」
彼はそう言って教室に入った。
一緒にきっと見られるのがいやなので20秒くらい後に入った。
「ハルちゃん おはよ」
みんなから声をかけられた。
またなんか言われるのかと震えながら席に着いたとき チャイムが鳴った。
「・・・やっば」
私は慌てて準備をした。
物理・・・私の苦手科目だった。
上の空で授業に参加した私は、先生に指されてもただうっとりしていた。
目の前がぼんやりする・・・真っ白い・・・
ねむってしまうの・・・?