「カナダに居る間ね、あの日のこと考えてた。」

「あの日?」


あの日…

卒業式の日の事だろうか?


「うん。あの日私、生まれて初めての白された。」


やっぱり卒業式の日の事だ。


「嬉しかった。」



彼女の言葉がこだました。


「ずっと言いたくて、言えなかったけど…」



成瀬は動いていた足を止め、

俺の方を向いた。


「私、中学の頃、好きな人が居てね。」

明かりのない川原でも

彼女の顔がはっきり見えた。


「でも、内気な私に告白する勇気もなくて。もう会えないんだなあ、って時に告白されて。」

彼女は話した。

あの日の俺のように。


「凄く嬉しかった。夢じゃないかと思った。
でもそれと同時に会えなくなった。」


はっきり見える彼女の顔は

笑顔でも泣き顔でもない。

真剣な顔。


「その人が居ない間、ずっと気持ちばかり溢れて。好きで好きでしょうがなかったの。」

「はは、あの時の俺と同じだね。」

「そうね。…私も、純粋に好きだったの。」

「今も?」

「今も。多分、これから一生、ずっと。」

成瀬の顔を、俺はじっと見つめた。