「あら、政宗くんは?」
「あ、ちょっと電話しに行きました。」
「そう…」
ママの隣に立つ女性の顔は
薄暗いバーではよく見えない。
「そちらの方が…」
「そうよ、さっきのピアノ弾いてた子。」
ペコリと頭を下げた。
そして俺の横に座るその女性を
俺は初めてはっきりみた。
「…!」
息が詰まる。
「ママ、私にもワインをいただけるかしら」
「はい、どうぞ。」
「ありがとう」
女性とママの会話が
ずいぶん遠くから聞こえる気がした。
女性が振り向く。
全てがコマ送りのように見えた。
「久しぶり。」
グラスに入ったワインをこちらへ向けて
女性は答えた。
そう、
その女性が
成瀬舞衣だったのだ。