僕と慎也の手が机の上に近づいて行く。

天使の最後の抵抗なのか一瞬手が止まる。もう後数センチのところ。

また周りを見渡す。

心臓が、張り裂けそうなほど膨らんでいるかのようだ。

周りを見渡していた目線を机に戻す。

そして最後の一押しをする。

指先が制服に触れる、肌触りは自分たちが着ているものと大差がない。

しかし何か違ったような気がした。

それを確かめようとして、次は手のひらで触ろうとする。

カツーン

誰かが階段を上ってくる音がシンとした校舎に鳴り響いた。

僕たちは、びくっと体を揺らして制服に掛かっている手を離す。

机から離れ黒板の前に二人で立ち尽くす。

ガラッ

ドアが開いた。

僕は心臓が飛び上がるような想いでドアをじっと見る。

「あはは、それで〜、あれ。」

「あら。」

入ってきたのは、いつもの二人、何か話しながら来たのか、僕たちを見て話しをやめたようだった。

「何で教室にいるのよ。」

二人で同時に訊いてきた。

予想はしていたが、いざ訊かれると言葉に詰まる。

「いや、忘れ物を取りに来たんだ。」

半分本当のことを言う。

この後にしようとしていたことを言う勇気はなかった。

「ふーん。」

釈然としない顔で僕たちを見る二人に罪悪感がつのる。

「まぁいっか、それよりも着替えるから出てってよ。」

愛花が話を打ち切った。

内心助かったなんて思いながら僕は席を立つ。

慎也はいつもの調子で、

「着替え手伝ってやろうか。」

なんて言って、二人に背中をたたかれていた。

教室を出ると僕たちは走り校舎を飛び出した。

帰り道慎也と

「なんか損した気分だな。」

後悔したり。

「なんか良かったよな。」

感想を言ったり。

「もうやりたくないな。」

なんて今日の反省をしながら帰った。

北信越大会まであと 3日。