『…直』
『そこの海は渡っちゃ駄目だ。
二度と現実世界には戻れなくなる。
ここは生死の境目だよ』
『生死の…境目。そうですわ、私…
急に苦しくなって、意識が無くなって…』
『お前がここに来たってことは、
一刻の猶予もねぇんだ…早く帰れ!』

冷たく突き放す直。
派留は直の優しさをちゃんと分かっていた。
だからこそ、帰りたくなかった。
直が怒って派留を睨んだとき。
派留が唐突に、言葉をぶつけた。

『もう…会えないんですか…?』
直は派留に顔を見られないよう、
背中を前にして海の方を見た。

『次会えるのは…お前が本当に
この海を渡ってからだ』
とても短い言葉だけど、覚悟が
聞き取れた。

『帰りたくないです!直といたい…!
向こうに戻っても直がいない生活は…
辛いんです…帰りたくない…』
『…派留』
直は派留の方を見た。

『あたしはあそこで死んだこと無念だった。
もっと他の方法があったんじゃねぇかって
思ったよ。でもこっちの世界も悪くねぇぞ?
叔母も叔父も先代も居るし。平和で、静かだ』
『…直』
『だから、お前みたいな五月蝿い奴が
来るにはまだ早いんだよ。迷惑なんだ』
『直』
『…』

直は大きく深呼吸をして、派留に言った。




『もっと、生きたかったよ』




振り向いた直は、切なく儚い表情をしていた。
本当に会えないんだと涙が次々に溢れる。

直は派留に近付く。

ガッ

派留を思い切り殴った。
倒れ込む派留。光が派留を包む。

『じゃあな。利津のこと、よろしくな』
『直…っ直!!』

泣きながら手を伸ばす派留。
届きそうなところで、視界が白くなった。

派留が消えたあと直は震える唇を噛み締めた。
その目には涙が浮かんでいた。
ソレは静かにこぼれ落ちる。

『もう来んじゃねーぞ』
強がった言った言葉だった。
直は後ろを振り向いて、海へ歩いていった。