私は、新幹線の中にいた。
「只今から、乗車券を拝見いたします。乗車券をお持ちでないお客様は、私、車掌までお申し付け下さい。」

車掌の声が響きわたった。それもそのはず、私の車両には、私を含め、3人しかいない。
私の前に乗り合わせていたオヤジが、絡んだ咳をした。

対に面した座席の、私の右後ろ奥のビジネスマンは、パソコンを徐に開いたまま、大きな口を開けて、お疲れ様と言わんばかりの鼾をかいている。
私は、トリーバーチの黒財布から、切符を取り出した。

車掌が私から切符を取る。
「ご乗車、ありがとうございます。」
切符にハンが押される。
京都―東京

指定席の喫煙。

私は、左手の煙草を吸う気力もないままに、ふと寝てしまっていた。
慌てて目を覚ました時には、列車が、品川駅のホームを滑る様に通過していく。パッと、高層ビル街の中に、ソイツは現れた。

いつも見る彼だった。
昔から変わらない彼だった。
オレンジのライトを身に纏い、これでもかと言わんばかりに輝き立つ。
周りの高層ビルが、すみませんと言ってるようにも見える。

彼の斜め左ボディを、滑る様に通過した新幹線は、山手線の電車と仲良く並んで走る。
「お待たせいたしました。終点、東京、東京です。車内お忘れ物ございませんよう、お気をつけて、後車下さい。」