でも、妙に納得したことは確かだ。
老けて見える、というより俺達よりずっとずっと落ち着いているのだ。
言葉がうまく通じない国でひとりで過ごすなんて、どんな気持ちだろう?
拓人は嬉しそうに首をひねって答える。
「うーん。またヨーロッパに行きたいなぁとは思うんだけどさ。物価が高いんだよ……だからそうだな、また南米でもいいなぁ。寒い所は好きじゃなくて避けてきたから、そろそろ行ってみようかなとも思うけど」
「寒いトコ。ロシアとか?」
「いいね。でも俺、日本の寒いのも嫌なんだ」
そう言って笑う。
俺はスプーンをかんでしまって苦い顔をした。
拓人は大学へ行かずに日本で金を貯めて、海外へ行ってを繰り返しているらしい。
理由を尋ねると、あっけらかんと一言。
『毎日鬱屈しちゃってる気がしたから』。
『鬱屈……?』
『そう。無いものねだりばっかりしてる自分。でも何もしようとしない自分。うんざりしてた』
『拓人が?』
『うん。で、思ったんだ。俺には見てないものがたくさんあるんだ。世界のデカさと比べたら死ぬまでにほとんど時間がないんだ。だから、できるだけたくさんのものが見たかった。知りたかった。感じたかった。それで海外ってのも、なかなか単純だけどね』
笑った拓人の目を見て、少し俺は居心地が悪くなる。
うつむきたくなる。
自分の話はできなかった。
何故だか、彼には自分を理解してもらえないような気がして。
俺のことを年下だと思ったと言われたのも、ひどく馬鹿にされたような気がした。
カレーの皿を洗いにいくと、拓人が後ろから声をかけてくる。
「晶はさ、卒業したら何すんの?」