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「いやはや、ホントに助かったよ」


俺よりも先に熱いシャワーを浴び、俺が食べるはずだったカップ麺を2つも腹に収めると、ようやく奴はひとりごちたように息をついてそう言った。

もはや返す言葉もなく、
不審げに目つきで観察することしかできない。

体の汚れを落とし(俺んちのシャワーで)、
汚らしかった無精ひげをそり(俺のシェーバーで)、
ぼろぼろの服を取り替えると(俺の服と)、
第一印象よりもずっと若々しい男がそこにいた。
(ぶっちゃけた話最初は中年の男だと思った)

にこにこ無邪気に笑う姿を見ていると、
強盗と勘違いしたのはさすがに失礼か、と思いなおす。

しかし、奴がひたすらに怪しいことに変わりは無い。


「……ホントなんですか?あんたの話」


俺は眉間に深い皺を刻み込んだまま訪ねた。


「何が?」

「全部ですよ。本当に俺の隣の部屋に住んでたんですか?帰ってきたら自分の部屋じゃなくなってたってどういう事ですか?大分前からあそこは空き部屋ですよ」

「一年前はちゃんと住んでたよ」

「あぁ、確かに一年前は人の住んでる気配がしてたけど。俺、あんたのこと見たことないっすよ?こんなちっさいアパートで、隣人の顔全く知らないなんてありえます?」


まくしたてると、彼は笑顔を絶やさないままあっけらかんと答える。