***
思えば、アパートの階段を昇る俺の足は、いつだって重かったような気がする。
息が白い。
今日も冷えそうだ。
『今夜、地元のメンバーで飲むけど、9時でいい?』
痛む頭を押さえながら携帯の液晶を見つめた。
ちっとも思考は働いていないはずなのに、俺の指は実にスムーズに動く。
『悪い、昨日も飲んでてさぁ(笑)今帰ったトコなんだよね(^_^:)ちょっと今夜はキツイわ。また誘ってm(_ _)m』
携帯を閉じると、その音がやたら周りに大きく響いた気がして、びくりとする。
時刻は午前9時。
朝まで飲んだくれて、さぁこれから我が家で寝倒そうという事への後ろめたさかもしれない。
「気持ちワル……」
ふらふらしながらアパートの部屋にたどり着いた。
明日のバイトが休みでよかった。
だからと言って、少し調子に乗りすぎただろうか。
とりあえず水を飲んで、熱いシャワーを浴びて着替えて、確かカップ麺があったはずだからそれを腹にいれよう。
そうしたらもう寝るだけだ。
頭の中でそんな算段をしながら、部屋に入る。
声をかけても返事の帰ってこない俺の部屋。
いいんだ、構わない。俺は自由だから。
「ただいまぁ……」
後ろ手にドアを閉めようとした。が、あと少しのところでドアが動かなくなる。
「―――え?ちょっ…うわッ」
閉めるどころか大きくドアを開け放たれてバランスを崩す。
それでなくても二日酔いの足もとはおぼつかない。
倒れこんで顔をあげた先には、大柄で色黒の、小汚い男が俺を見下ろしていた。