キスが初めてで何が悪いのよ。
大事にとっておいたのに!

「悪かったですねえ!!」

「誰も悪いなんて思ってねーよ。」

前を歩いていた会長を抜かし、いかにも機嫌の悪い歩き方ですたすた前を進んだ。

にしても広い。なんでこんなに広いの?
中学の時の廊下が2cmだとすればここの廊下は5cmくらい。
あれかな。エリート校ってヤツだからかなぁ?

自分が今どこに進んでいるかも忘れていたので、気付いたら違う学年の廊下に行ってしまっていた。
「おい!他学年の階は行っちゃだめだ…」

そんな会長の注意の一言も頭に入らず、気付けば先輩のようなガラの悪い男にからまれていた。

「君、1年の子?今年の1年は冴えないヤツが多いって聞いたけど。結構かわいいね〜!!」

「あ、えと私、教科書を取りに…」

やばいやばい!これは危険!と頭の中で警報が鳴っている。どくんどくんと嫌な鼓動が全身を走る。
「後で案内するからさ。そんなカオしてないでちょっと俺と…ぐあっ!!」

私は恐怖の余り、精一杯の力で先輩を突き飛ばすと、体は意外になよっちく、すぐに床にへばりついた。

「…ってぇーなぁ!!調子乗ってんじゃねえぞゴルァ!!」

わざとゆっくりと立ちながら、同一人物とは思えないような怒鳴り声を上げた。
やっぱり、人間ってものは裏表があるんだなぁ、とこの状態で変に悲しくなった。

不意に、何故か安心できる会長の声が聞こえた。
若干、涙目になったような気がする。

「俺の美乃莉に醜い言葉を浴びせるな。」

「はぁ?うっせーよ正義ヅラ!!テメーもシバかれてえのか!?」

「立場をわきまえて物を言えよ?お前、二年の荒くれ者の吉川だろ?」

「あぁ?何で知ってんだ…ってお前……!!」

何が起きているのかまったくわからないけど、立場は会長の方が優位…な気がする。

「早く失せろ。二度と美乃莉に手をだすな!」
そう威嚇すると、すごすごと教室に戻って行った。

あの野郎見てろよ、と復讐の声が聞こえてきたのは、なかったことにしたい。


「大丈夫か?」

「あ、うん。平気…」

言葉を言い終わるまでに、何故か私は嗚咽が漏れでた。それを感じ取った会長は、私を強く抱きしめる。