奏多side


俺は御滝高校の新入生にして生徒会長。

本来新入生は会長になんかなれないが、特別な事情で、ってこともある。 入学式ではああ言ったけど、本当は俺、代わりなんだよな。

生徒会長が何らかの事情で職を務めることが出来なくなった場合において、原則理事長の息子が代理を務めるらしい。

副会長とは何の意味があるのか、と心の中で呟きつつ また思い出すアイツのこと。

篠原美乃莉。
入学式当日、俺は苛立った腹いせに無理矢理キスをした。
真っ赤になって泣きそうになったアイツを見て、正直ざまあみろと思った。

でも、その後残ったのは虚しさだけで俺は自分がよくわからなくなった。

そのことについて多少悪気を認めた俺はさっきのことについて何とかして謝ろうと話しかけた。

が、出て来るのは憎まれ口ばかり。

その度に彼女は嫌な顔をしていたのに、俺はその事に気付いていなかったんだろうか?

その後教材を取りに行くことになって、すっかり俺は嫌われていた。

俺がいてもいなくても対して変わらないような物腰。 ふらふらとした足どりは、どこに行くかわからず少し不安で、いつの間にか見失ってしまっていた。

そこまで遠く離れてはいないはずだ、と思い

『他学年の階は行っちゃだめだ!』

果たして聞こえたのだろうか。
アイツを初めて見て、正直可愛いと思った。
惚れてしまいそうになるくらいに…

だから、他学年のところになんか行ったら尚更危ない。

嫌な感じのする冷えた汗は、髪をつたって流れ落ちる。

案の定違う階にいたアイツは、男にからまれていた。
2年の吉川。 全校生徒の顔と名前なんか覚えちゃいないし、まったくの嘘だが吉川は知っている。
少し見栄えのする女を見付けては口説いて、フラれたら逆上という糞みたいなヤツ。
丁度その噂の通り、奴は物凄い形相で怒鳴りつけていた。
その怒鳴りつけた瞬間ほんの少しの間だが、彼女は悲しそうな顔をした。

怯えた表情というよりは暗い表情といったところか。

そのことについて何も思わなかったので、俺はストレスと一緒に吉川を蹴散らした。

今朝見た生意気な表情とは一変、臆病でしおらしくなった彼女を

本当に守ってあげたくなった。