怖い。
なんでか分からないけど、怖い。
大翔が大翔じゃないみたい。
「本気の恋して上手くいったら、おもしろくねぇだろ?」
「……」
「そう簡単に恋愛は上手くいかねぇってことを教えてやろうと思ったんだよ」
「……」
「まぁ、バレたからもう意味ねぇけどさ」
「……」
「つーか澪のやつ本気にしてた?俺があいつのこと好きだって」
最後の………言葉。
どういうこと?
あたしが本気にしてた?って。
まるで、あたしを好きなのは嘘みたいな言い方して―――……。
「澪に言ったら許さねぇから。あいつには好きなフリしてろよ」
「嘘ついたままでいいんだ?そしたら、本気でお前ら2人別れさせるよ?」
「好きなフリしたまま2度と俺らの前に現れんな」
………う……そ……?
はっきりと聞いてしまった。
大翔があたしを好きだと言ったのは、蓮とあたしを別れさせて蓮を苦しめるためで。
あたしを本当に好きだったわけじゃなくて。
何も知らずにあたしは――…。
気づいたら、あたしは無意識のうちに蓮と大翔の前に出ていた。
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突然出てきたあたしに驚いた様子の蓮と大翔。
そりゃそうだ。
あたしに聞かれたくないから、こんな路地で話してたんだし。
「あたしを利用したって、ほんと……?」
唖然とする大翔に、そう投げ掛けた。
大翔は何も言わなかった。
否定しないんだから―――……どうやら利用したのは本当のことらしい。
もう傷つくっていうより、むなしくて仕方がない。
「どこから聞いた?」
「大翔が蓮を恨んでることも、あたしが利用されたことも、それを蓮が隠そうとしてたことも全部知ってる」
「……」
「教えて」
全部を知ってると言ったあたしに蓮は複雑な表情をしたけど………あたしは全部を知ってるわけじゃない。
「そんなの、こいつが嫌いだからだよ」
.
憎しみがこもったその言葉の後に、大翔はさらに続けた。
“中学2年の時に1個上の先輩と付き合ってて、1年付き合ってたけど喧嘩1つしないくらい仲良かった。
けど、いきなり連絡がとれなくなった。
それから連絡がとれない日が何日も続いて――…。
けど原因はすぐ分かって、こいつと歩いてるのを見かけた。
浮気してたんだよ、こいつと”
それを聞いてあたしは………黙ってることしかできなくて。
確かに、彼氏がいる人と関係を持つ蓮も悪いとは思うけど、浮気をする彼女も悪いとは思う。
正直、大翔がここまで蓮を憎く思う意味が分からない。
「そんなことで、あたし利用したの?」
だから、あたしは思ったことをそのまま素直に言っただけ。
「そうだよ。そんなことでお前を利用をしたんだよ。……もう、お前ら2人の邪魔はしないから安心して」
なのに、大翔は違和感がある言葉だけを残して、その場を去った。
『澪、ごめんな』と、あたしの横を通りすぎるときに囁いて。
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あたしの心がすっきりしないまま………3人でいる時間は終わってしまった。
だから蓮にしつこいくらいに質問をした。
しばらくは口を開かず、何も教えてくれなかったけど。
……あたしのしつこさに諦めがついたのか、しぶしぶ全てを教えてくれた。
蓮は最近になってから、放課後よく出かけるようになって、
今思えばそれは、あたしの呼び出しが多くなった日からだった。
実は、蓮は朔たちと一緒に、呼び出しが多くなった理由を調べに、他校や地元の友達に聞き回ってくれていたらしい。
あたしには言わなかったけど、蓮たちも呼び出しが多くなったことを不思議に思ってて、
昔遊んでた女の子たちにも何か情報を持っていないか聞き回った結果………。
大翔や同じく蓮を恨む人が、蓮と関係を持ってた女の子たちに吹き込んでることが分かったらしい。
しかも、その内容が『蓮の彼女が神埼澪って言うんだけど、彼女になって調子こいてる』って内容で。
それを聞いた瞬間………あたしは何を信じればいいのか分かんなくなった。
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けど、大翔を嫌いにはなれない。
もちろん好きなわけでもない。
でも何て言うんだろ。
元カレだし、昔のやんちゃで優しかった大翔を知ってるから、憎いとは思えない。
よく考えれば、蓮がしたことは大したことなかったとしても、彼女を奪われた大翔からしたら、そんなこと関係ない。
酷いか酷くないかは、加害者や周りの人が決めるわけじゃなくて、
被害者本人がどう思うかが1番重要なんだよね。
もしあたしが大翔の立場だったら、相手の女の子を憎んじゃうかもしれないし。
その人の苦しみはその人にしか分からなくて。
他人のあたしには、大翔の苦しみの10分の1も分かっていないのかもしれない。
利用されてたことは悲しいけど、大翔があたしを好きじゃなくてどこかホッとした自分もいる。
そんなあたしこそ、大翔を憎む理由はないと思う。
きっとモヤモヤしていたのは、大翔の苦しみが分からなかったからだと思う。
だからか、少し気持ちがすっきりした気がした。
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「あたしと蓮って別れてたかもしれないんだね」
「あいつのせいで、って意味?」
「まぁ…。でも、憎まれる蓮も悪いんだからね!」
「……それに関しては何も言えねぇから困る。つーか、ちゃんと反省してっから」
「し、知ってる」
「今は澪ちゃん一途だし?」
晶乃が待ってるファーストフード店へ戻り、あたしの家に帰ることになった。
でも、啓介が迎えに来たため、啓介と晶乃はどこかへ行ってしまった。
だから、たまり場にはあたしと蓮しかいなくて、さっきまでの大翔との話が一気に脳裏に浮かんだから、なんとなくその話をし始めた。
「もう澪ちゃんにぞっこん」
「てか、澪ちゃんって止めてくれない?なんか……恥ずかしい」
「恥ずかしいか?いいじゃん、澪ちゃんって可愛いくね?」
「そういう問題じゃないってば!」
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―――……いろんなことがあった2学期も終わりを迎えた。
最終日は終業式とホームルームで終わり冬休みへ入った。
翌日はクリスマスイブで、前から蓮とどこに行こうか話していて、
結果、ちょっと離れた場所にあるイルミネーションを観に行くことになった。
夜だったから、あたしは午前中に晶乃と一緒にクリスマスケーキを作った。
夕方はたまり場でクリスマスパーティーをして、あたしと蓮以外はお酒を呑んで酔っ払ってた。
あたしと蓮はその後バイクでイルミネーションを観に行く予定だったから、お酒は我慢した。
だけど、途中でお酒がなくなっちゃって、酔っ払いたちは行けないからってあたしと蓮で行くことになった。
………すると、タイミングが良いのか悪いのか、大翔と鉢合わせた。
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大翔はあたしも知ってる男友達といて、久しぶりに会った友達に『久しぶりじゃん』とか色々言われた。
そしたら、あたしと大翔のことを知ってるのか、空気を読んでなのか知らないけど………
その友達数人は『あっちにいる』と行って、近くにある公園に行ってしまった。
「あの日……以来だな」
「そうだね……」
「実はさ、俺、お前に言ってないことまだ1つあったんだよ」
「……え……?」
あたしにまだ言ってないこと?
「気付いてたかもしれねぇけど………マジでお前のこと好きだった」
「…っ」
「最初は利用できるとか最低なことしか考えてなかったけど、変わってねぇ澪見て、ほんとに惹かれてた」
「……」
「こいつには言うなって言われたけど……やっぱ言っとかないと気持ち吹っ切れない気がして」
「……」
「なぁ、澪。マジでこいつに泣かされたらすぐに言えよ?今は一途みたいだから許してやるけど、泣かせたら許さねぇし」
大翔の………まさかの告白。
気持ちには答えられないけど、嬉しい気持ちに変わりはない。
やっぱり、大翔は昔の優しい頃と変わってなんかいなかった。
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そんな大翔に対して、『泣かせねぇから安心しろ』と蓮は自信満々に宣言してみせた。
あたしはそれを聞いて、ほんとかよ!言ったな!って、心の中で叫んでた。
「澪、はっきりフって」
そう言われて最初は躊躇した。
けど………曖昧まま終わらせちゃダメだと感じて、決心した。
けじめをつけよう、と。
「大翔とは……これからも仲良い友達でいたい」
「……」
「あたし、蓮がほんとに好きで。自分でもビックリするくらい好きで」
「……」
「だから……大翔とは付き合えない」
「うん、分かった」
その後に『あー!これですっきりした。色々……ごめんな。じゃ、良いクリスマスを』と言って、
大翔はその場を去っていった。
蓮がヤキモチを妬いたかと思っていたら、まさかのあたしの蓮好き宣言に、浮かれたようで……。
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