ぞっこん☆BABY〜チャラ男のアイツ〜





マジでムカつく!




ひっぱたいてやりたい衝動を抑えながら、あたしはこぶしを強く握り締めた。



そんなことを知らない蓮と大雅は、まだまだ話を続けようとする。




「じゃあ、お前が知らねぇだけなんじゃねぇの?」

「何が?」

「澪ちゃんの良いところ」




遊び人はなぜかあたしをフォローしてくれてる。



一言“そうなんだ”で終わらせればいいのに……。



モテるんだったら女の子に飢えてはいないだろうし、


そこまであたしに執着する意味が分からない。



………だからって、褒められることに対して嫌な気はしない。



そりゃあ……嬉しい。



でも、きっとこの男が女の子を褒めたりするのは日常で当たり前のこと。



特別なことなんかじゃないし、あたしが変にドキドキしたらこの男の思惑通りだ。




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「良いとこ知りてぇって思えば、相手の良いとこ見えるし、悪いとこばっか気にしてると、悪いとこしか見えなくなんだよ」




思惑通りにはなりたくないのに、その言葉がやけに胸の奥に突き刺さる。



遊び人のくせに……。



少しドキッとしたから心臓がおかしいのかと疑ったけど、でも遊び人の言葉が頭の中を巡ってる。



……だけど、少しでもドキッとした自分をすぐに恥ずかしくなった。




「ってことで、澪ちゃんも番号交換しねぇ?」


「え?」


「番号、交換しねぇ?澪ちゃんの良いとこたくさん知りてぇし」




……うん。


そう来るかもとは思ってたけどね!


いい言葉だけ言って終わらせるはずないって思ってたけどね!



きっと彼はこうして手強い女の子と番号交換をしてきたんだ。



その手段にあたしはまんまと………ハマろうとしてたなんて。




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そんなことを思いながらも……



『じゃあ俺が送る』と言って携帯をあたしに向けてくるから、気づいたら遊び人の番号を受信していた。



電話帳には、“竹中(たけなか)蓮”と表示されていて、


それを見て、蓮って名前なんだって思い出した。



悔しいけど顔がかっこいいのは確かだから認める。



それに加えて名前までかっこいい名前だなんて。



ズルいと言うか、なんというか…。



きっとこの男はモテるために生まれてきたんだと、勝手に思い込んだ。



じゃないと、神様は本当に不公平すぎて神様を嫌いになりそうだったから。




「やべぇよ朔。お前の大事な片割れの澪が狙われてんぞ」




でも嫌いになりそうな神様にも、大雅だけは黙らせてほしいとお願いしたい。




「それはやべぇな。俺の大事な澪が狙われちゃ黙ってるわけにはいかねぇしなぁ」




ついでにそんなことさらさら思ってるはずがないのに嘘つきまくる、あたしの片割れの朔も黙らせてほしい。



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大雅と朔のふざけた会話はすぐに終わり、他の話に切り替わった。



時間が8時を過ぎた時、お母さんにあたしと晶乃だけ夜ご飯を食べに連れ出された。



大雅たちは毎日のようにたまりはするけど、夜ご飯を食べていったことはない。



まぁ確かに食べ盛りのヤンキーたち5人の夜ご飯を作るってなったら、めんどくさいしお金もかかる。



ましてや、それが毎日になんてなったら、尚更無理な話。



お母さんは最初は大雅たちを夜ご飯に誘ってたけど、大雅たちが断ってから誘うことはなくなった。



あたしと朔が中学生の時も、あたしたちはよく家に友達を連れ込んでたから、


お母さんもあたしたちの友達の対応に慣れているみたい。



夜ご飯は中学の時からそれぞれ適当に済ましている。




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朔はほとんどコンビニで買ってきたり、どこかへ食べに行ったりしてる。



あたしは晶乃が来た時は晶乃が料理作るのが好きで作ってくれるから、


高校生になってからは逆に家で食べることが多くなった。




晶乃はお母さんの料理を食べると、必ず『澪ママ天才っ!』とお母さんの手を握る。




「今日作れなくてごめんなさい!明日は絶対作ります!」

「全然大丈夫だから。え、明日も来てくれるの?じゃあ作ってもらっちゃおうかなぁ」

「はい!作っちゃいますよ」




晶乃とお母さんの間ではそんなやり取りが行われていて、


明日も晶乃が来ることはもう決定してしまったらしい。




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それからは特に朔たちがいる部屋に戻る理由もなかったから、お母さんとあたしと晶乃の3人でリビングで話してた。



盛り上がって1時間くらい話してたときだった………。




「ただいまぁ。……て、また晶乃泊まりに来てんの?!」




あたしのお姉ちゃんの楓(かえで)が帰ってきた。



お姉ちゃんはあたしの2歳上の高校3年生で、あたしと朔と同じバカ松に通ってる。




「もしかしてまた喧嘩したの?」

「何で分かるんですか?!そうなんですよ!しかもあのクソじじぃ殴りやがって!」

「マジ?ちゃんと殴り返した?」

「はい!楓ちゃんに言われた通り本気のビンタやりましたよ」




晶乃がよく泊まりに来るから家の事情も知ってるし、この通り今では仲良し。



……ていうか、お父さん殴り返したのってお姉ちゃんの教えだったんだ……。




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実のお姉ちゃんながら友達にそんなことを教えるなんて、どんな神経してるんだろうって疑っちゃう。



まぁ疑いつつも、あたしでも殴られたら殴り返してやるんだけどね。



だってやられっぱなしじゃいい気しないじゃん?

ナメられちゃ困るし。




……とまぁそんなこんなで、お姉ちゃんも加わり話してたら、あっという間に夜の11時になってた。



さすがにお母さんにお風呂に入るように言われ、晶乃、あたしの順に入った。




あたしの家のお風呂はキッチンの隣にあって、その間に洗面所がある。



だから洗面所と脱衣所は別々になっている。



脱衣所と洗面所の間にはもちろんドアがあって、脱衣所の中から鍵がかけられるようになってるんだけど……



ということは、洗面所と脱衣所の間にはドア1枚しかないってこと。




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いつものように髪の毛、体の順に洗って暑いから湯船には入らないで出た。



脱衣所で体と髪の毛を拭いてパジャマを着た。



以前寝てる時にブラジャーをつけてると胸の成長が遅れるって聞いたから、


寝てる時はブラジャーをつけてないようにしている。



つまりノーブラ。



ノーブラだからか少し胸の辺りがスースーする感じがするけど、


いつものことだから気にすることなくブラジャーはつけずにパジャマを着た。




――…そう。



ちょうどその時だった。



ドア1枚向こう側の洗面所から、男数人の声が聞こえてきた。




「お前どこでも知ってんだな。ここ啓介の家みてぇ」

「そりゃ中1ん時から入り浸ってんから第2の家みてぇなもんだよ」

「つーか、お前むしろ自分の家よりこっちにいる方が多くねぇ?」

「あ、そうかも」




声と会話からして―――……啓介と大雅と遊び人がいるらしい。




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「蓮、ここな」

「あぁ。サンキュー」




どうやら………遊び人にわざわざ洗面所の場所を教えるために来たらしい。



確かに啓介は中1の時からあたしん家に入り浸ってるから、知らない所はないと思う。




……それより……



ドアで仕切られて鍵が付いてるからといって、


逆に言えばドア1枚しか洗面所と脱衣所の間にはない。



それなのに向こう側には遊び人がいる。



ドアには上の方に小さく曇りガラスがあって、姿がはっきり見えるわけじゃないけど、


黒い影となった遊び人の姿が見える。




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