その話かなり最初の方のじゃん!
じゃあ最初からあたしたちの話聞いてたってこと?
ヤバい――…と、すごく焦って冷や汗が出そうになった。
「しかも俺、澪ちゃんに警戒されてんだろ?」
やっぱり遊び人はしっかりと聞いてたらしい。
「警戒しなくても何もしねぇから安心して」
「そ、そんなの分かってるから」
「へぇ?じゃあ何でさっきから俺から微妙に離れていってんの?」
「うっ…」
痛いところつかれた。
だって危険すぎるから……。
あたしは徐々に遊び人から離れていった。
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……すると、遊び人は突然あたしの顔に自分の顔を近づけてきた。
え、ちょ、なになに?!
突然の遊び人の行動にプチパニック状態のあたしは、
遊び人から目を逸らすことも――…できなかった。
けど、それには理由があった。
理由とは、あまりにも遊び人の顔が………かっこよかったから。
鼻が高く切れ長の目をしてて、キャラメル色の髪がより一層、整った顔を引き立たせている。
おまけに……いい匂いもした。
顔が近づいて内心ドキドキするあたしに、
「つーか朔と全然似てねぇな?双子だけど男女だから似ねぇもんなの?」
平然とした顔の遊び人。
あたしの気も知らないで、この男はそれだけ言うと、あっさりとあたしから離れ元の位置に戻った。
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「あれ?何固まってんの?もしかして、キスされるって思った?」
さらにバカにした顔をして聞いてくる。
「そっ…そんなこと思ってないから!ていうか、二卵性だから朔とは最初からそんなに似てなかったし」
「へぇ。でも、朔もずば抜けてかっこいいけど、澪ちゃんもずば抜けて可愛いよね」
「…っ!」
「お世辞とかじゃねぇから。俺お世辞言えねぇし」
………この男はいったい何がしたいんだろう。
どうしてこんなにも、あたしを悩ませるんだろう。
いったいあたしはどうしたらいいんだろう。
けど、この男は絶対あたしをからかってるに違いない。
もう、そうとしか思えない。
しゃべり方や接し方からして、女の子には慣れているようだし、やっぱり危険人物。
あたしの……1番嫌いなタイプ。
だけど、正直に言うと。
顔が近づいたときに、整った顔や匂いのせいで、キスしたくなりそうだった。
あの瞳に吸い込まれそうになったのも事実。
3秒でキスさせるなんて嘘だと思ってたけど………本当にいるのかもって思った。
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「あ、そういや啓介(けいすけ)の番号知らねぇ」
「マジ?じゃあ待って。今言うから登録しといて」
啓介が自分の番号を口で言って、遊び人は携帯にその番号を打っているようだった。
………部屋の外で話していたあたしたち3人は、
朔の『澪ー、コップがねぇんだけどー』の声で、再び部屋へと戻った。
あたしがコップを持って戻ると、さっきの遊び人と啓介のやり取りが行われていた。
「アドレスは?」
「あー…いらねぇ。あんまメールしねぇし」
「だよな。電話のが楽だしな」
なかなかあたしが座る場所がなく、ソファーの隣に腰を降ろした。
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ソファーの向かい側には適当に3人の制服を着た男が座ってる。
制服を着てるって言っても、見た目は明らかに崩れていて、指定のネクタイなどしてはいない。
そう――…。
ここにいる全員がバカ松高校に通ってる生徒。
遊び人がそうなのかは知らないけど。
あたしと朔と啓介は同じ中学で、他はみんなそれぞれ違う中学。
バカ松はあたしの家から自転車で10分もかからないくらいで着く場所にある。
だから、あたしの家には放課後に朔の友達がよく来るようになって、
いつの間にかたまり場になっていた。
啓介の他には、今日いる3人は決まって放課後あたしの家に来る。
その3人とは、拓斗(たくと)と大雅(たいが)と諒(りょう)。
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拓斗は黒髪短髪で、だて眼鏡をしていて一見厳(いか)つくて近づきづらい。
でもだて眼鏡を外すと………意外と目が可愛くて、優しそうな顔をしてる。
本人いわく、そのギャップで何人もの女の子を落としてきたんだとか。
拓斗は朔と同じクラスで、入学式当日は席が朔と隣で、朔にガンを飛ばしてたらしい。
だけど席が隣ってこともあって、自然と仲良くなってたって2人して言ってた。
そのくせに、入学初日には2人は仲良くなって、
入学してからたった5日で、拓斗はあたしの家に平日はほとんどたまるようになった。
あたしももちろん最初に会ったのは入学した日で、拓斗を見て“話しにくそう”って思ったけど、
家に来るようになって話しているうちに、そんなイメージも無くなった。
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大雅は金の短髪でワックスでツンツンに立たせていて、顔はまぁまぁ整ってる方だと思う。
よくしゃべるし騒ぐし、大雅がいるだけですぐ騒がしくなる。
今は金髪だけど、中学の途中までは野球をやってたらしくて、やたらと野球自慢をしてくる。
大雅は朔のことを中学の時から知ってて、入学した日に自分から話しかけて朔とは仲良くなったらしい。
その時に拓斗や啓介もいて、意気投合したんだとか。
大雅は中学から付き合ってる同い年の彼女がいて、プリクラでしか見たことないけど、めちゃくちゃギャルだった。
でも1年続いてて、今は倦怠期に入って喧嘩ばっかだから、それが悩みらしい。
彼女がいない他3人は勝ち組の大雅をよくからかう。
それなのに、あたしはなぜか大雅にいつもからかわれてる。
ていうか、バカにされてる。
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諒は明るい茶色の短髪で、見た目はザ・クールって感じ。
女といる時は“まったく”といっていいほどしゃべらない。
だから諒とはまともにしゃべったことがない。
よく男友達と一緒にいるところを見るけど、学校やあたしの家でも普通に笑うししゃべってる。
だけどあたしがその輪に入ろうとすると、突然無口になる。
最初の頃は………そんなだった。
でも今はなぜか知らないけど、あたしが話の中に入っても笑うし普通にしゃべるようになった。
きっと朔の妹だし、毎日のように顔を合わせるからだと思う。
だからといって、諒と1対1で話したことはないから、どんな人なのかはまだ謎のまま。
そんな諒は拓斗と中学の時から友達で、その繋がりで朔たちとも知り合ったんだとか。
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「晶乃ちゃんも番号交換しねぇ?」
「あ、全然いいよ。赤外線でいい?」
「あぁ、いいよ」
あたしの目の前では今、晶乃と遊び人が番号を交換している。
3秒で女の子にキスさせてしまうほどの魅力があるらしい遊び人。
チャラ男が嫌いなあたしだって、一瞬惑わされたくらいだ。
きっと普通の女の子だったらイチコロに違いない。
危険なことをあたしに伝えてくれたのは晶乃……。
それなのに何で晶乃が番号交換なんかしちゃってんの!?
連絡先教えちゃったら更に危なくなるじゃんよ!
そんなことも知らず、晶乃は、むしろ嬉しそうに遊び人と赤外線をしている。
「晶乃ちゃん、蓮には気を付けてね?コイツ女の子落とすの趣味みたいなもんだから」
あたしが頭をこんがらがせる中、晶乃に啓介はそう注意した。
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