麻奈美は中学の時から祥平くんを好きなのに、祥平くんはちっとも振り向いてくれず。
気にしてほしくて、当時たくさんの女の子と遊んでた蓮と遊ぶようになって、
蓮は麻奈美の気持ちを知ってたから、遊ぶことはあっても体の関係を持つことはなかった、と。
そしたらある日、麻奈美は祥平くんが他の女の子と歩いてるところを見てしまい、
すごく落ち込んでた頃―――……タイミングが良いのか悪いのか、あたしと蓮が付き合うことになった。
もちろん蓮から連絡は来なくなって、彼女がいるって知った麻奈美は、蓮のバイト先である海の家に来た。
麻奈美は祥平くんと上手くいかないから、蓮に彼女ができたのを知って妬み、邪魔をしに来たんだ、と。
祥平が一緒に歩いてた女の子はたまたま会った同じクラスの子で、
あいつも麻奈美が好きなんだよ――…と、困った顔で蓮が話してたって。
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あたしは真相の全てを知って、少し、気持ちに余裕ができた。
それから少しして………
「澪、話してぇから外来て」
やっと蓮が迎えに来てくれた。
蓮と一緒に外に出て、すぐに蓮は口を開いた。
「何で言わなかったんだよ」
……うん。
いきなり何を言うかと思ったら、どういうことっすか?
「な、何を?」
「麻奈美から電話あったんだろ?しかも俺が貸したとか言って」
「…まぁ」
「あいつが言ってたのは半分ほんとで半分嘘だから。遊んでたことはあっても、ヤっては……」
「知ってる、から大丈夫」
あたしのその言葉に、蓮が眉間にシワを寄せて『知ってる?』って疑うように言うから、一瞬焦ったけど。
でも蓮は特に気にしなかったみたいで、『ならいいんだけど』と呟いた。
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たとえ女の子でも、蓮にとっては友達なわけだし。
そんな複雑な家庭事情を持つ女の子を、助けてあげられるのが蓮なわけだし。
確かに他の女の子と親密になられるのは良くは思わないけど、
元々チャラ男だった蓮が、今こうしてあたしのために弁解しに来てくれてるだけで嬉しく思う。
だから――…
「どうしたらいいか分かんねぇんだよ」
切なそうな声出してそんなことを言う蓮が………あたしらしくないけど、愛しく思える。
「マジで澪だけが好きだし、これから先も大事にしてぇって思う」
「……」
「でも、どうしたら傷付かねぇのかとか分かんねぇんだよ」
「……」
「澪と付き合うまではたくさんの女と遊んでたくせに、本気の付き合いしてねぇから、結局肝心なこと何も分かんねぇんだよな」
「…うん」
「言い訳にしか聞こえねぇだろうけど、今回も俺が“信じて”って言えば信じてくれるんだと思ってた」
「…うん」
「女心は分かってると思ってたけど、澪の気持ち分かってねぇと意味ねぇんだよな」
蓮らしくない下向きな言葉ばかりが蓮の口から出てくる。
あぁ……そうか。
あたしは今日、また新たに蓮の知らないところが今分かった。
元チャラ男の蓮は―――……実はすごく恋に不器用な人なんだ、と。
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あの“麻奈美事件”から10日―――……。
その10日の間に、いろいろあったと言えばあったし、特に大きなことがなかったと言えばなかった。
あたしも蓮も適度にバイトを入れて、休みの日には海や近くのお祭りに出掛けたりもした。
お互いにバイトがある日でも蓮は必ず夕方に終わるから、
あたしが夕方までに終われば夕方から会えるし、夜に終わっても迎えに来てくれるから、結局は会えた。
まぁ会う場所っていっても、たまり場になってるあたしの家なんだけど。
だから、もちろん2人きりになれる時間は少ない………というわけでもなく。
朔たちがナンパしたのか知り合いなのか、あたしが知らない女の子たちとよく遊んでたから、
自然とあたしの部屋に2人でいるようになった。
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だからって………まだキスの先はしていない。
つまり、あたしはまだ世に言う処女ってわけだ。
どうしたものか、蓮は2人でベッドで寝てても、あたしに何もしてこなかった。
してほしいわけじゃないけどね?!
欲求不満なわけでもないけどね?!
ただ、昨日晶乃と遊んだときに晶乃に言われちゃったんだよね。
『えっ?!まだシてないの?!』
『この前2人で一緒に寝たんじゃないの?!』
『寝たのにエッチしなかったの?!』
『しかも相手は元チャラ男なのに?!それ絶対我慢してるんだよ!』
あたしよりもずっと恋愛経験豊富な晶乃にそう言われ、それからもしばらく騒がれた。
……ていうか、ガミガミ言われ続けた。
え、そうなの?
普通そうなの?
今時のカップルって、そんな早い時期にヤっちゃうもんなの?
何せ女友達より男友達の方が多かったから、今のカップル事情を全然知らないから困った。
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一緒にいても蓮が我慢してるようには見えないし、あたしの体型が体型なだけに、ムラムラもしないだろう。
まずそんなことは絶対ありえない。
だから、あたしが大人の階段を上るのは………まだまだ先になりそうだ。
やたらとあたしたちの下事情に興味津々な晶乃に、じゃあ晶乃と啓介はどうなのって聞くと、
あっさり、『もうシたよ』と言われてしまった。
さすが晶乃。
けど、啓介を意味もなくムカついたりもした。
啓介のくせに、って。
そうやって訳も分からず啓介にムカついたあたしに、思わぬハプニングが待ち受けていようとは………思いもしなかった。
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久しぶりにみんなのバイトの休みが重なったある日。
エアコンが効いた涼しいたまり場で、みんなでだらけていた。
「もう外出たくねぇ。つーか夏休み終わるまで出れねぇ。うん。これは出たくないとかじゃなくて出れねぇ」
誰かに話し掛けてるんだろうけど、みんなめんどくさくて相手にしないから、自然と一人言を言っちゃってる大雅。
さっきから一人言ばっか言っててうるさいって思ってたけど、
もうここまで相手にされてないのを見ると、可哀想になってくる。
「止めてよ泊まんないでよ?夏休み終わるまでいられたら、内緒な話かなり迷惑だから」
そして結局、あたしが大雅の話し相手になってあげちゃうのがいつものパターン。
「冗談だし、そんな泊まるわけねぇだろ。お前バカ?」
救世主のあたしを、大雅は“バカ”呼ばわりしやがった。
「バカじゃないし、バカって言う方がバカなんですー」
「つーか内緒な話とか言ってっけど、声に出してる時点で内緒じゃねぇからな?迷惑って嫌な2文字聞こえてるからな」
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さらに、あたしのバカ返しを無視してきやがった。
「あ、ごめん。口が滑っちゃった」
「そっか、ならしょうがねぇな。って、おい!お前マジでムカつくなっ」
1人で勝手にヒートアップしてる大雅。
バカすぎて笑えてくる。
相変わらず大雅は大雅で、この先も成長しない気がするのはあたしだけだろうか。
「ムカつくのは大雅だし。ついでにバカなのも大雅だし」
「ついでにとかいらねぇから。つーかバカなのはお互い様だからな?」
「一緒にしないでほしいんですけどー。大雅と同じバカとか恥ずかしすぎる」
「っ!ムカつく!マジでムカつく!」
あたしと大雅が低レベルな言い合いをしてると、横で朔が『うるせぇ』と、タバコをくわえながら言ってきた。
それにあたしと大雅が無視するはずもなく―――……。
「うるさくしてんのは大雅だし!」
「はぁ?確実に絶対的にうるせぇのはお前だろうが!」
2人で同時と言っていいほど、そう発した。
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そんなあたしたちに………というより大雅に、
蓮はさっきまで読んでた漫画を投げた。
『いって!』と、漫画の角が運悪く当たって痛いらしい大雅は蓮を睨む。
だけど、そんな蓮に申し訳なさの欠片は1つもなくて、むしろ意地悪い顔をしてる。
「俺の澪ちゃんにバカって言う方がバカなんだよバーカ」
「バカ多くね?!そんなバカバカ言わなくてもよくね?!」
「うるせぇよバカ。俺の女いじめてんじゃねぇよバカ」
「…っ、お前らカップル揃ってマジでムカつく!」
大雅の怒りは頂点へ達したようで、
……それから少しの間、大雅の愚痴ばかりの一人言が続いた。
永遠に続くかと思った一人言が終わったのは―――……朔の携帯が鳴ったときだった。
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